2050年のカーボンニュートラルの実現へ向けて、中間目標である2030年が差し迫っている中、脱酸素経営への注目度はますます高まっています。しかし、いざ脱炭素経営に乗り出そうと思っても、どのような手順で何を行えばよいのか分からないという企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、これから脱炭素経営に取り組もうと考えている企業のご担当者さまへ向けて、脱炭素経営に向けてのステップや具体的な取り組み内容をご紹介します。
※本記事の内容は2024年5月時点の情報です
脱炭素経営とは、企業が地球温暖化の進行によって起こる気候変動への対策を経営上の重要課題として捉え、組織全体で取り組むことです。具体的な取り組みとしては、温室効果ガス(GHG)の排出を減らすことや、森林管理・海洋保全・科学技術の進歩などによってGHGの吸収を増やすことが挙げられます。
元々国内では、CSR(企業の社会的責任)活動の一環として大企業を中心に、自然エネルギーへの転換や植林活動などが行われてきましたが、活動内容や範囲は各企業の倫理観に委ねられていました。
しかし、2016年に採択されたパリ協定を受けて、日本政府は2030年までにGHGの排出を2013年比で26%削減し、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言。以降は企業や地域全体にも、GHGの排出量の可視化や削減を目指すことが求められるようになりました。
この流れは、原材料の製造・輸送・販売・廃棄を担う一連の企業(バリューチェーン)全体に広がっており、2024年現在、脱炭素経営は中小企業にとっても喫緊の課題となっています。
脱炭素経営に取り組むことは、企業に多くのメリットをもたらし、逆にリスクを低減させます。ここでは、企業が脱炭素経営に取り組むべき代表的な4つの理由をご紹介します。
気候変動はハリケーンや豪雨の多発などの異常気象の他、海面や気温の上昇などによる生態系の変化を引き起こす恐れがあります。この余波によって、企業はサービス提供のための資源や原材料の収集量・品質の低下、社員の労働環境の悪化、設備の維持コストの増加といった問題を抱えてしまいかねません。もしも、近隣で地球温暖化による森林火災が起きたら、自社の財務状況が圧迫されるだけではなく、事業継続すら危うくなってしまうでしょう。
今や、脱炭素経営による気候変動への対策は、ビジネスにおけるリスクを低減する上で欠かせないのです。
一方で、気候変動による需要の変化や対応するための技術の変化が、ビジネスチャンスになる可能性もあります。
前述の通り、近年はサプライチェーン全体で脱炭素化への取り組みが進んでいます。そのため大企業やグローバルな事業展開をしている企業は、取引先にもCO2の排出量削減を求める傾向にあります。そのような風潮の中で率先して脱炭素経営に取り組めば、脱炭素化を推進する企業から選ばれやすくなり、新たな取引のチャンスにつながるでしょう。
また脱炭素経営の取り組みがメディアで紹介されたり自治体から表彰されたりすれば、「先進的な企業」「脱炭素に積極的に取り組んでいる」というイメージが付き、自社の知名度や認知度が向上する可能性も高いです。投資家が興味を持ってくれれば、好条件での資金調達にもつながります。
企業が脱炭素経営の一環として、省エネ設備や太陽光発電設備など導入を進めれば、電力会社に支払う光熱費や燃料費の削減が期待できます。設備の導入にはまとまったコストがかかりますが、国の補助金制度などを活用して初期費用を抑えたり、長期的な視点で費用を回収できるタイミングを確認したりすることで、トータルでのコスト削減を実現できるケースも多いでしょう。検討する価値は十分にあります。
企業が気候変動に対して積極的に取り組む姿勢を示すことは、社員の共感や信頼の獲得につながります。人材不足が叫ばれる昨今、社員の帰属意識やモチベーションが向上するのは、企業にとって大きなメリットです。
またサステナビリティを意識した経営は、気候変動をはじめとする社会問題へ興味・関心を持つ人材へのフックとなります。「エシカル就活」という言葉も登場しており、社会問題への貢献を企業選定の条件の一つにしている若年層の獲得チャンスにもつながるでしょう。結果として、企業活動の持続可能性の向上をも、もたらします。
2006年に国連で提唱された「PRI(国連責任投資原則)」をきっかけに、投資家たちはESGの視点を投資に取り入れ始めました。ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字をつなげた総称です。投資家たちの間では、環境問題や社会に配慮した適切な経営を行っている企業に対して積極的に投資をする「ESG投資」に、注目が集まっています。
そのため企業はこうした流れを機会と捉え、脱炭素経営などESGを意識した取り組みを積極的に公開することが重要です。ここでは、気候変動の取り組みに対する情報開示の枠組みや、脱炭素化に向けた目標設定の枠組みをご紹介します。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とは、Task Force on Climate-related Financial Disclosureの略で、企業の気候変動への取り組みや影響に関する情報を、財務情報として開示することを推奨する国際組織です。2023年10月時点で、全世界で4,872の企業・機関が賛同を表明し、日本でも1,470の企業・機関が賛同しています(※)。
TCFD提言では、下記の4つの項目について情報開示することを推奨しています。
2021年に東京証券取引所のコーポレートガバナンスコードが改訂され、2022年からプライム市場上場企業は、TCFD開示が実質義務化されています。
※参照:経済産業省.「日本のTCFD賛同企業・機関」.https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/tcfd_supporters.html ,(2023-10-12).
※参考:TCFD Consortium. 「TCFDとは」. https://tcfd-consortium.jp/about , (2024-05-30).
※参考:JPX. 「改訂コーポレートガバナンス・コードの公表」. https://www.jpx.co.jp/news/1020/20210611-01.html , (2021-06-11).
SBT(科学的根拠に基づいた排出削減目標)とは、Science Based Targetsの略で、企業が設定する科学的な根拠に基づいたGHG排出量削減目標を指します。前提となるのは、2015年のパリ協定で決定された、地球温暖化の気温上昇を産業革命以前と比べて、1.5℃〜2℃未満に抑えるという国際的な目標で、企業がSBTの認定を受けるためには、この目標に整合するように、5〜10年という中・長期的な視点で、GHG排出量の削減目標と達成するための具体的な行動を設定する必要があります。
2024年3月時点で、SBT認定を取得または取得することにコミットした日本企業は1,000社を超え、1年もたたないうちに2倍になる勢いで増えています。
※参考:WWF.「日本企業SBT認定・コミット1000社超え」.https://www.wwf.or.jp/activities/news/5561.html ,(2024-03-08).
RE100とは、Renewable Energy 100%の略で、企業が事業運営で利用するエネルギーを100%、太陽光や風力、バイオマス、地熱といった再生可能エネルギーで賄うことを目指す企業連合です。RE100へ参加できるのは、年間電力消費量が100GWh以上の企業に限られ(日本は特例として50GWhに緩和)、2030年までに60%、2040年までに90%、遅くとも2050年までに100%の再エネ化を達成する必要があります。
2024年5月時点では、86の日本企業がRE100に参加しています。
※参考:JCLP.「RE100・EP100・EV100 国際企業イニシアチブについて」.https://japan-clp.jp/climate/reoh ,(2024-05).
脱炭素経営の重要性や情報開示・目標設定の枠組みについて理解が深まったものの、まだ具体的に何から始めたらよいか分からないという方も多いでしょう。ここからは、脱炭素経営の実現に向けた6つのフェーズの内容と行うべき取り組みについて、詳しく解説します。
脱炭素経営の最初のステップは、将来気候変動が自社にどのようなリスク・機会をもたらすかを予想することです。TCFDは、大きく分けて移行リスクと物理リスクの2つがあると提言しています。
リスクの定義 | 詳細なリスクの種類 | リスクの詳細 |
---|---|---|
移行リスク | 市場の変化 | 低炭素社会に移行することで、特定の商品やサービスの需給が変化するリスク |
技術の変化 | 再生可能エネルギーや省エネ、エネルギー効率といった科学技術の変化に乗り遅れてしまうリスク | |
政策や法律 | 脱炭素に向けて法律や規制が変化したり費用負担が新たに発生したりするリスク | |
評判 | 気候変動対策を行えていないことで、自社の評判が落ちてしまうリスク | |
物理リスク | 急性リスク | 自然災害の頻度が増し、被害額が増加するリスク |
慢性リスク | 海面上昇や気温上昇などの長期的な気候変動により、資材の調達が困難になったり収益が低減したりするリスク |
このように気候変動はさまざまなリスク要因をはらんでいますが、一方で市場や技術の変化が自社のビジネスチャンスとなる可能性もあります。そのため、中・長期的な影響を予測する際は、リスクと機会の両方に目を向けることが重要です。
次に、自社のGHG排出量を算定してみましょう。算定対象となるエネルギーは、電力や灯油、都市ガス、ガソリンなどです。CO2排出量は、以下の計算式で算出します。
CO2排出量 = 活動量(電気や燃料の使用量) × 排出係数(活動量当たりのCO2排出量)
日本商工会議所が提供しているCO2チェックシートなどを活用し、設備単位や事業所単位で排出量を可視化するのがおすすめです(※)。
また脱炭素経営に取り組むなら、サプライチェーン全体のGHG排出量も把握しておく必要があります。国際的な基準である「GHGプロトコル」に沿って確認してください。GHGプロトコルでは、資材の調達から消費・廃棄に至るまでの一連の流れをScope1~3に区分し、その合算を「サプライチェーン排出量」と定義しています。
※参考:日本商工会議所.「CO2チェックシート」.https://eco.jcci.or.jp/checksheet ,(2024-05-16).
サプライチェーン全体のGHG排出量を把握できたら、具体的な削減目標を設定します。脱炭素化への計画や取り組みは企業ごとに異なるものの、カーボンニュートラルの実現が目指すべきゴールであることは、世界共通です。そのため、先述したそれぞれの枠組みが提示している指標を参考にしながら、「いつまでに・いつを基準に・どのくらいの削減を目指すのか」を決めるのがおすすめです。中でも、SBTを活用する企業が多いようです。
続いて、目標に向けてどのような取り組みを企業として行うか、具体的な計画を立てましょう。例えばサプライチェーン全体で算出したGHG排出量を時系列(年別・月別・時刻別など)で整理したり、事業所・設備別に比較したりすると、相関関係や傾向を知ることができます。
分析ができたら対応策を洗い出します。冷暖房の温度設定を変える、照明をLEDに切り替えるといった小さなアクションでも構いません。社内で持ち寄ったアイデアの実現可否やコストを検討し、すぐに実行できるものから開始しましょう。
計画が固まった後は、排出削減の目標と計画を投資家や顧客へ向けて情報開示します。前述した通り、プライム市場上場企業は、TCFD提言に沿った年次報告書を作成する必要があります。またグローバル展開をしている企業なら、海外の法律や規制に合わせてGHG排出量やカーボンニュートラルの計画を開示するよう、求められる機会も多いでしょう。
定期的な情報の開示は、企業の透明性や説明責任を果たすという意味で重要です。また自社の脱炭素経営に対する支持や理解を得る上でも欠かせません。
最後は、策定した目標と計画を実行に移しましょう。取り組みをただ進めるのではなく、定期的にサプライチェーン全体のGHG排出量をチェックし、目標に対しての進捗を確認することが大切です。必要に応じて計画の練り直しや別案の検討を進めることで、取り組み自体をブラッシュアップしていくことができます。
また設備の導入などを検討している場合は、社内で独自に設定する炭素価格(ICP)を活用し、採算性を考慮した上で投資を行うようにしましょう。政府や自治体が行っている補助金制度を活用できる場合は、最新情報をチェックし、申請に必要な準備を進めます。補助金制度は年度予算によって内容が変わることがあるので、想定よりも自社の持ち出し費用が増えてしまうということのないよう、注意してください。
最後に、脱炭素経営へ向けたGHG排出量削減の取り組みとして取り入れやすい「省エネ強化」「再生可能エネルギーの導入拡大」「燃料転換」の3つについて、伊藤忠エネクスが提供しているサービスをご紹介します。
省エネの強化は最も取り組みやすい施策の一つです。資源エネルギー庁が公表している「令和5年度補正予算における省エネ支援パッケージ」では、今後3年間で、省エネ補助金の予算規模を7,000億円へと拡充させると明記されています。そのため、今後省エネ設備の導入や買い替えを検討している場合は、補助金制度の活用も視野に入れておきましょう。
伊藤忠エネクスでは、LED照明や空調設備の導入を支援しています。初期費用0円で、最新の省エネ機器を導入可能です。
月額サービス料はかかりますが消費電力が抑えられるため、トータルで考えるとコストダウンにつながります。また6年目からは導入した省エネ機器はお客さまのものになるため、月額サービス料もかかりません。
小規模店舗などであれば3週間程度で導入できるので、スピーディに省エネ強化を進めたい企業にもおすすめです。
省エネルギー商材斡旋サービス
03-4233-8041 平日9:00〜17:30伊藤忠エネクスではデマンドコントローラーも提供しています。デマンドコントローラーとは、リアルタイムでデマンド値を監視し、主に接続された空調設備を自動制御する機器です。外気温の影響で室温が変化する前に自動で空調を作動させ、温度を一定の範囲で保つことが可能で、消費電力の中でも多くを占める空調設備の稼働を制御することで効率的に節電することができます。
また時間別や設備別に電力量を把握できるので、GHG排出量をチェックするのにも役立つでしょう。
デマンドコントローラーに関するお問い合わせはこちら
03-4233-8041 平日9:00〜17:30RE100などの取り組みを達成するには、再生可能エネルギーの調達は欠かせません。必要な電力を再生可能エネルギーで賄うには、自社で発電設備を保有して自家消費する方法や、非化石証書を購入する方法があります。
TERASELソーラーは、お客さまの施設に太陽光発電システムを設置し、発電した電気を自家消費していただくサービスです。契約期間中は、定額エネルギーサービス料(設備利用料、メンテナンス費など)をお支払いいただき、契約期間後は月額サービス料なしで、設置した太陽光発電システムはそのまま継続してご使用いただけます。
法人向け電力販売サービス「TERASELでんき for Biz」と併せてご契約いただければ、使用電力を100%再生可能エネルギーにすることも可能です。
TERASELソーラー(自家消費型太陽光発電システム)
03-4233-8041 平日9:00〜17:30伊藤忠エネクスでは、お客さまの使用電力量に合わせて、「トラッキング付きのFIT非化石証書(再エネ指定)」を調達することもできます。RE100に対応した「運転開始から15年以内の発電所」由来の非化石証書の調達も可能ですので、お気軽にご相談ください。
環境価値オプション
03-4233-8041 平日9:00〜17:30サプライチェーン全体のGHG排出量の削減を実現する上で、輸送や配送におけるCO2排出量は見過ごせません。そこで注目を集めているのが、次世代バイオ燃料への転換です。日本ではまだまだ導入例が少ないものの、欧米では広く普及しています。
伊藤忠エネクスが提供するリニューアブルディーゼルは、廃食油や廃動植物油などを原料としたバイオ燃料です。石油由来の軽油と比べて約70~90%ものGHG排出量を削減でき、国際持続可能性カーボン認証(ISCC)も取得しています。代替燃料として、輸送用トラックやバス、コンビニ配送車、船舶燃料への導入が進んでおり、他にもさまざまな分野での導入が可能です。
リニューアブルディーゼル
03-4233-8041 平日9:00〜17:302050年のカーボンニュートラルへ向けて企業が取り組むべき脱炭素経営には、気候変動による将来のリスク・機会の把握や自社の優位性・知名度の向上などの利点があります。光熱費や燃料費の削減、社員のモチベーションアップにもつながるので、企業の競争力を高めることにもつながるでしょう。
脱炭素経営を実現するにはさまざまな枠組みを参考にしつつ、本記事でご紹介した6つのステップに沿って進めることが大切です。今すぐ大規模な計画の実施をするのは難しくても、サプライチェーン全体での省エネ強化や再生可能エネルギーの調達など、着手できるものから脱炭素経営への取り組みをしていきましょう。
GHG排出量の削減目標を立てたものの、「具体的な計画の策定が進まない」「計画を実施したものの削減効果が低い」といった課題にお悩みの場合は、ぜひ伊藤忠エネクスにご相談ください。伊藤忠エネクスは半世紀以上続くエネルギー総合商社として、脱炭素経営の実現を支援するさまざまなサービスを提供しています。貴社の環境対策の課題に適したご提案ができますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
脱炭素経営に関するお問い合わせはこちら
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