小売電気事業者と発電事業者の間で行う電力の取引には、いくつかの方法があります。そのうちの一つが、日本卸電力取引所(JEPX)の「スポット市場」での取引です。
スポット市場で取引される電力の価格は一定ではなく、入札によって変動します。入札の結果は30分単位で算出される「約定価格(やくじょうかかく)」に反映されます。約定価格は、小売電気事業者が需要家に提供する「市場連動型プラン」の電力量料金単価と連動しているため、これから電力会社やプランの切り替えを検討している企業のご担当の方は、しっかりと仕組みを理解しておいた方が良いでしょう。
本記事ではスポット市場の概要や約定価格の決まり方、JEPXでの位置づけなどについて解説します。後半では、近年の電力市場の動向にも触れているので、ぜひ最後までご覧ください。
※本記事の内容は2025年12月時点の情報です
目次

スポット市場とは、翌日に受け渡す電力の売買を行う市場です。「一日前市場」とも呼ばれ、需要と供給のバランスに応じて柔軟な取引が行われます。
このスポット市場を運営しているのは、日本で唯一の電力取引市場である日本卸電力取引所(JEPX)です。取引を行うには、JEPXの取引会員になる必要があります。基本的に買い手となるのは新電力をはじめとする小売電気事業者、売り手となるのは旧一般電気事業者などの発電事業者です。
電力の取引市場では買い入札と売り入札が集められ、その結果として「約定価格(やくじょうかかく)」が算出されます。約定価格とは買い手と売り手の需給が一致する金額を指しており、スポット市場においては「ブラインド・シングルプライスオークション」で決まります。約定価格はJEPXのWebサイトにて誰でも確認可能です。これにより透明性が確保されています。
ブラインド・シングルプライスオークションの仕組みと、入札から供給までの流れについて、詳しく見ていきましょう。
ブラインド・シングルプライスオークションでは、参加者が他の参加者の入札状況を知らない状態で価格が決定します(ブラインド)。JEPXがすべての買い入札と売り入札をそれぞれ順番に並べて需要曲線と供給曲線を描き、2つの線が交わる点を約定価格とします。これにより、供給が増えて需要を上回る場合は価格が下がり、その逆になれば価格が上がる仕組みです。
取引が成立するのは、約定価格よりも高い金額で入札した買い手と、約定価格よりも安い金額で入札した売り手のみです。入札価格に関わらず、約定価格にて取引をします(シングルプライス)。
また約定価格よりも安い金額で入札をしていた買い手や高い金額で入札をしていた売り手は、取引が不成立となります。そのためスポット市場で電力の取引をする際は、市場動向を踏まえた上で、慎重に入札価格を決定する必要があります。
スポット市場の取引の流れはシンプルです。
参加者はまず、取引対象となる電力の受け渡しを行う日の前日午前10時までに入札を完了させます。入札の開始は、発電・販売日の10日前の午前8時からです。例えば15日に受け渡しを行う電力に対して入札をする場合、4日の午前8時から14日の午前10時までが入札期間となります。
入札締め切り後はJEPXのシステムによって約定価格が決まり、エリアごとに売買が成立した電力の量と取引の価格が通知されます。この通知に基づき、翌日に電力の受け渡しが実施される流れです。
なおスポット市場では、1日分の電力を「0分〜30分」「30分〜60分」といった30分単位の48コマに区切って取引します。こうした細分化により、各時間帯の需給状況バランスをより正確に約定価格へ反映しています。
※参考:JEPX.「日本卸電力取引所取引ガイド」. https://www.jepx.jp/electricpower/outline/pdf/Guide_2.00.pdf ,(2025-12-04)

電力市場全体にいえることですが、スポット市場の約定価格はさまざまな要因によって変動します。代表的な要因は以下の6つです。
まず大きく影響するのは、発電に使用する燃料価格です。原油・石炭・LNGなどの価格が高騰すると発電コストが上昇し、それが約定価格にも反映されやすいです。為替も重要で、円安が進むと燃料の輸入価格が上昇するため、結果的に約定価格の上振れ要因となります。
また市場に供給される電力量そのものが変化することも、約定価格が変動する要因です。設備の稼働状況が変わり、発電量が減少すれば約定価格は上がりやすく、逆に発電量が増加すると下がりやすいです。
さらには天候や季節、時間帯も価格変動に直結します。太陽光や風力といった再生可能エネルギーによる発電量は天候に左右されるため、雨や曇りの日は約定価格が上がりやすいです。季節も重要で、夏は冷房を冬は暖房を使うため、電力の需要が増加しやすく、約定価格に影響するでしょう。時間帯によっても需給状況は変化し、夕方から早朝までは約定価格が高くなる傾向にあります。
実際、過去には約定価格が急騰した事例もあります。例えば2020年12月~2021年1月には寒波の影響で電力需要が急増し、そこへ燃料不足などが重なったことで、スポット市場の約定価格を含む電力市場全体の価格が短期間のうちに上昇しました。
過去の電気料金高騰の事例については、以下の記事で詳しく解説しています。
▼過去の電気料金高騰の要因を徹底解説! 2024年の電気料金の見通しや企業が選ぶべき優良新電力の条件とは?

JEPXには、用途や目的に応じて使い分けられる複数の市場が設けられています。その中でもスポット市場は、短期的な取引の中心を担う重要な市場です。取引量はJEPX全体の大半を占めており、全国の電力ビジネスに関わる事業者にとって、欠かせない取引の場といえるでしょう。
スポット市場以外には、当日直前の需給調整を行う「時間前市場」や、長期的な取引を行う「先渡市場」、そして参加者同士が個別に条件を提示して取引を成立させる「掲示板市場」などがあります。
各市場の特徴を理解することで、スポット市場の位置づけをより明確に把握できるでしょう。それぞれの市場について、以下で詳しく解説します。
※参考:JEPX.「2024 年度事業報告書」. https://www.jepx.jp/company/overview/pdf/BR2024.pdf ,(参照2025-12-04)
※参考:JEPX.「日本卸電力取引所取引ガイド」. https://www.jepx.jp/electricpower/outline/pdf/Guide_2.00.pdf ,(参照2025-12-04)
時間前市場(当日市場)は、電力の受け渡し日における実際の需給状況に応じて、その日の取引内容を調整できる市場です。
小売電気事業者や発電事業者は、通常であれば前日の正午までに翌日の需要調達計画や発電販売計画を作成し、提出します。しかし気温の急激な変動や突発的な発電所の停止など、予測困難な事象が発生し、実際の需給量が計画とずれてしまうケースも少なくありません。
こうした計画提出後の需給ミスマッチに対応するために設けられているのが、時間前市場です。スポット市場とは取引のタイミングや目的が異なり、この2つを組み合わせることで、より安定的な電力の受け渡しを実現できます。
時間前市場では、取引の価格と取引量をザラバ方式によって決定します。買い入札と売り入札が集まるのはスポット市場と同じですが、ザラバ方式では売り手と買い手が提示した条件が一致した点が約定価格となり、個別の取引ごとに異なる金額で取引が成立する仕組みです。
先渡市場とは、将来の特定期間に受け渡す電力をあらかじめ取引しておく市場です。短期的な取引を行うスポット市場や時間前市場とは異なり、価格変動リスクを抑えられるのが特長で、長期的に安定した取引を実現できます。
先渡市場を利用する小売電気事業者や発電事業者は最大3年前から1週間や1カ月、1年などのスパンで調達計画・売電計画を立て、事前に契約を結ぶことで、取引の価格を固定化します。これにより、価格変動によるコスト上昇や収益低下を回避する効果が得られるでしょう。
先渡市場における取引の価格と取引量は、時間前市場と同様、ザラバ方式によって決定します。
掲示板市場は、JEPXが電力取引の仲介役として機能する市場です。電力取引のマッチングを目的としており、小規模な発電事業者や個人でも参加しやすい市場として位置づけられています。
この市場では、スポット市場のように入札によって約定価格が決まるわけではありません。売り手が提示した条件を基に、JEPXが取引会員の中からその条件に合う買い手を探し出す仕組みです。
最後に、近年の電力市場の動向をご紹介します。
2022年に電気料金が高騰した際、翌年には国が「電気・ガス激変緩和対策事業」を実施し、需要家の負担軽減が図られました。現在は、2021年以前の水準に戻ることはないものの、過去の急騰局面と比べれば相対的に落ち着いている状況です。ただし、燃料価格や需給状況によっては再び変動する可能性があるため、電力市場の動向には引き続き注意が必要といえるでしょう。
また再生可能エネルギーの普及促進や新電力各社が提供するサービスの多様化などが進んだことにより、電力市場全体の価格が決まる要素はこれまで以上に多面的になっています。
これらの要素について、もう少し詳しく見ていきましょう。
※参考:経済産業省 資源エネルギー庁.「電力小売全面自由化の進捗状況について」. https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/071_03_00.pdf ,(発表2024-03-31).
世界情勢の動きは、電力市場を理解する上で重要な要素の一つです。近年の世界情勢は、過去の急激な混乱局面と比べると一部では落ち着きが見られ、燃料価格も安定してきているものの、依然として変動しやすい状況が続いています。
燃料価格は、世界情勢と密接に関係しています。例えば原油は世界中で取引されており、需要に対して供給が下回ると、価格が上昇します。供給が少なくなる理由としては、設備のトラブルや供給国の方針変更、輸送ルートの渋滞などが考えられるでしょう。また政情不安や紛争などがあれば、供給が途絶えてしまう懸念が引き起こされます。投資家や市場参加者が将来の供給不足を見越して買いに走り、価格が急騰するかもしれません。つまり国際的な需給バランスの変化や情勢不安などが生じると、燃料価格が大幅に上昇する可能性があるのです。
先述の通り、燃料価格が上がればスポット市場の約定価格も高騰しやすいため、引き続き注意が必要です。
※参考:経済産業省 資源エネルギー庁.「結果概要 【2024年度】」. https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/pdf/2024/0-2024.pdf ,(発表2025-10-02).
※参考:経済産業省 資源エネルギー庁.「第1節 世界的なエネルギーの需給ひっ迫と資源燃料価格の高騰」. https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/1-2-1.html ,(2025-12-22).
近年、各国で脱炭素電源への転換を推進する動きが活発化しています。日本でも同様に、さまざまな施策が実施されてきました。
中でも再生可能エネルギーの導入に関しては、2012年に開始したFIT制度(固定価格買取制度)をきっかけに太陽光発電の普及が進み、2022年までの10年間で電源構成比が10ポイント以上拡大しました。
太陽光発電の普及により、スポット市場の約定価格は時間帯によって大きく変動するようになっています。特に昼間は発電量が増えるため供給が潤沢になり、価格が下落しやすいです。一方で、日没後は発電量の減少により需要が供給を上回り、価格が上昇するようなケースも見られます。
※参考:経済産業省.「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」. https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/095_01_00.pdf ,(2025-12-04).
2016年に実施された電力の小売全面自由化により、新電力が増加し、スポット市場などを介した電力調達の比率が高まりました。これに伴い、スポット市場の約定価格を電気料金に反映する「市場連動型プラン」を提供する新電力も増えています。また燃料費調整額の代わりに、市場価格の変動を電気料金に反映させる「市場価格調整額」などを設ける新電力もあり、以前と比べて電気料金が変動しやすい環境となっています。
当初はJEPXの市場価格が低水準で推移していたため、固定単価プランよりも電気料金を抑制する効果が見られ、市場連動型プランは多くの需要家にとって割安な料金体系として捉えられていました。しかし、2020年12月~2021年1月に需要の増加と供給力の低下が重なったことで、それまで低水準だった電気料金が一気に跳ね上がる現象が起こり、電力市場に大きな混乱をもたらしました。翌2022年には燃料価格が高騰し、結果として、廃業や倒産に追い込まれた新電力も少なくありません。こうした経験から、近年では市場の変動を前提にしたリスク管理が重視されるようになり、安定した経営基盤を持つ新電力や、高騰リスクを抑えられるプランが選ばれる傾向が強まっています。
実際のところ、新電力が提供する料金メニューは多様化しており、再生可能エネルギーに特化したプランや、価格変動に上限を設けたプランなども登場しています。
近年ではスポット市場だけではなく、先渡市場や時間前市場など、複数の市場を組み合わせる事業者が増えています。時間前市場の説明でも触れたように、短期と長期の取引を組み合わせ、より適切な価格で電力を調達・販売する取り組みが広がっているのです。
またAIを活用した需給予測や価格シミュレーション技術の高度化が進み、これまで人の経験に依存していた調達判断の自動化も始まりました。こうしたデータドリブンな取り組みは、電力市場のリスク分散や価格変動への対応力を高める足がかりとなっています。
スポット市場は、翌日に受け渡す電力を取引する短期的な市場であり、需給バランスに応じて約定価格が決まる仕組みです。スポット市場の約定価格は市場連動型プランの電力量料金単価とひも付いているため、プランを選ぶ際には仕組みをしっかりと理解しておきたいところです。
市場連動型プランは、電力市場の価格水準や電力を使用する時間帯によっては、従来の固定単価プランよりも電気料金を抑えられるケースがあります。一方で、市場価格が上昇した場合には電気料金が高くなる可能性もあり、料金水準は常に一定ではありません。そのため、市場連動型プランを選択する際は、電力使用パターンや価格変動リスクを踏まえた上で、自社にとって適した料金体系かどうかを慎重に検討することが重要といえるでしょう。
伊藤忠エネクスが提供するTERASELでんきforBiz.では、従来の「固定単価プラン」や市場の動きが反映される「市場連動型プラン」をベースに、使用量やニーズに応じたオーダーメイド式の料金プランを設計しています。電気料金の削減方法を検討している企業のご担当者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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