電力の小売自由化により、同じエリア・同じ使用電力量でも、契約する電力会社や料金プランによって電気料金に差が生まれるようになりました。一般家庭が契約する低圧電力はもちろん、主に企業が契約する高圧電力でも、その差は無視できないものとなっています。特に高圧電力はより多くの電気を使用するため、1kWh当たり数円の差であっても、大きな影響を受けるはずです。
契約する電力会社や料金プランを決める際は、単に見積もり金額が安いところを選べば良いというわけではありません。電力会社が自由に設定できる単価が妥当かどうかや、見積もりに載っていない項目がないかなどの確認をすることが大切です。
本記事では、高圧電力の電気料金の仕組みと、電力会社から見積もりをもらった際に必ずチェックしておきたい項目について、分かりやすく解説していきます。
※本記事の内容は2023年12月時点の情報です。
高圧電力の電気料金の内訳は、以下の通りです。
高圧電力の電気料金は、以下の計算式で求められます。
高圧電気料金 = 基本料金 + 電力量料金 + 燃料費調整額 + 再生可能エネルギー発電促進賦課金
各料金の決め方や具体的な計算方法を見ていきましょう。
基本料金は毎月発生する固定料金で、全く電気を使用しなくても支払わなければならないものです。高圧電力の基本料金は、契約する電力会社や料金プランによって異なり、一般的にはより電気を多く使う企業ほど、基本料金も高くなる傾向にあります。基本料金を算出する計算式は、以下の通りです。
基本料金 = 基本料金単価 × 契約電力 × 力率割引および割増
基本料金単価は、1kW単位の基本料金です。各社が自由に決めることが可能で、同じ電力会社、同じブランドでも料金プランごとに金額が異なる場合があります。次にご説明する契約電力が大きければ大きいほど、基本料金単価は割安になるケースが多いです。
契約電力とは、実際に契約している電力量のことです。電力量が50~500kWの間の場合は小口の高圧電力、500〜2,000kWの間の場合は大口の高圧電力に分類されます。また契約電力が2,000kWを超える場合は、特別高圧電力という分類になります。
高圧電力の種類 | 契約電力 |
---|---|
小口高圧電力 | 50~500kW |
大口高圧電力 | 500〜2,000kW |
特別高圧電力 | 2,000kW~ |
小口高圧電力の契約電力は、過去1年間(直近12カ月)の最大需要電力に基づいて決まります。最大需要電力とは、30分単位の平均使用電力である「デマンド値」のうち、1カ月の中で最も大きい値のことです。この契約電力の決め方を「実量制」といいます。
例えば1月に電気の利用を開始し、最大需要電力が300kWだった場合、1月の契約電力はそのまま300kWとなります。2月の最大需要電力が280kWでも、契約電力は300kWのままです。以降も最大需要電力が300kWを超えなければ、12月の契約電力までは300kWが適用され、翌年1月の契約電力には、前年2月〜当月までの間で最も大きい最大需要電力が適用されます。
また上記の例で、1月の最大需要電力が300kW、2月の最大需要電力が400kWだった場合、1月の契約電力は300kWですが、2月の契約電力は400kWに上がります。以降は最大需要電力が400kWを超えなければ、翌年1月の契約電力までは400kWが適用されます。
一方、大口高圧電力や特別高圧電力の契約電力は、契約ごとに需要家と電力会社が話し合って決めます。この契約電力の決め方を「協議制」といい、最大需要電力の他、使用する予定の電気設備や負荷率を基準とし、1年に一回、双方で協議の上、決定します。契約電力を超える量の電気を使用してしまった場合は、超過分に応じて違約金を支払う約束となっていることが多いです。
高圧電力の基本料金は、電力供給を受ける設備の力率に応じて、割引・割増されます。
発電所から届く電力は交流回路の仕組み上、一部が無効な電力となってしまいます。力率とは、供給された電力のうち有効な電力が占める割合のことで、有効な電力が多いほど力率は高くなり、基本料金が割り引かれます。
基本料金の計算に使用する力率は、以下の計算式で求められます。
力率 = (185 – 設備の力率) / 100
有効な電力が占める割合の基準は85%とされているため、簡易的に基本料金を算出したい場合は、力率に0.85を当てはめて計算してみてください。
力率は増えることもあれば減ることもあります。増減に対してどのような割引・割増があるかは電力会社によって異なるため、気になる場合は、見積もりをもらった段階で確認しておくと良いでしょう。
電力量料金は、実際に使用した電力の量に応じて変わります。算出するための計算式は、以下の通りです。
電力量料金 = 電力量料金単価 × 使用電力量
電力量料金単価は、電気の使用量が少ないプランほど高くなる傾向にあります。電力の小売自由化によって誕生した新電力は、電力量料金単価が安いことをアピールポイントにしているケースも多いです。
日本は電力の72.7%を火力発電に依存する、火力発電大国です。火力発電には原油やLNG、石炭といった化石燃料が必要ですが、これらの調達価格は、世界の市場動向や為替レートによって大きく変動します。この金額の幅を供給した電気の料金に反映させる目的で設けられているのが、燃料費調整額です。算出するための計算式は、以下の通りです。
燃料費調整額 = 燃料費調整単価 × 使用電力量
2023年現在、燃料費調整単価は、電力会社ごとに大きな差が出てくる部分の一つになっています。その背景には、電力の調達方法が電力会社によってそれぞれ異なるということが挙げられます。
※参考:経済産業省. 「令和4年度(2022年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)」. https://www.meti.go.jp/press/2023/11/20231129003/20231129003.html ,(2023-12-12)
再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)は、全ての需要家が支払う料金です。電力会社が「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)」で再エネ由来の電力を買い取る際に要する費用は、再エネ賦課金によって賄われており、需要家が使用電力量に応じて負担します。算出するための計算式は、以下の通りです。
再生可能エネルギー発電促進賦課金額 = 再生可能エネルギー発電促進賦課金単価 × 使用電力量
再エネ賦課金単価は、1年に一度、年度の開始前に経済産業大臣が設定します。2023年5月~2024年4月の再エネ賦課金単価は、契約電力の分類に関わらず、一律1.40円/kWhです。つまり、2023年5月~2024年4月の1年間の再エネ賦課金額を算出するための計算式は、以下のようになります。
再生可能エネルギー発電促進賦課金額 = 1.40円 × 使用電力量
※参考:経済産業省. 「再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2023年度以降の買取価格等と2023年度の賦課金単価を設定します」. https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230324004/20230324004.html , (2023-12-12)
高圧電力の電力会社を乗り換える際は、まず見積もりをもらい、内容を隅々まで確認してください。再エネ賦課金単価以外の単価は、電力会社が独自に金額を設定できるので、トータルの見込み電気料金だけでなく、ここまでにご紹介したそれぞれの料金の内訳を見ておくことが重要です。特にチェックしておきたいのは、燃料費調整額です。せっかく電力会社を乗り換えたのに、かえって電気料金が高くなってしまうようなことがないよう、しっかりと確認しましょう。
電力の小売自由化によって誕生した新電力の多くは、当初、基本料金と電力量料金は下げつつも、燃料費調整額については旧一般電気事業者(大手電力会社)と同水準にしていました。しかし、2021〜2022年にかけての世界的な燃料価格の高騰により、基本料金と電力量料金の安さはそのままに、旧一般電気事業者の水準を大幅に上回る独自の燃料費調整単価を設定し、燃料費調整額を引き上げることによって利益を確保する電力会社が現れたのです。
その独自の燃料費調整単価が見積もりに反映されているならまだしも、中には、燃料費調整額の入っていない見積もりを提示してくる電力会社もあります。この場合、基本料金と電力量料金の値下がりによって、見積もり上は現在より電気料金が安くなるように見えますが、実際には燃料費調整額が上乗せされるため、安くなるはずの電気料金が跳ね上がってしまう可能性があります。
電気料金が安くなると思って電力会社を乗り換えたのに、逆に値上がりしてしまったという事態を防ぐために、燃料費調整額は必ずチェックしなければならないのです。
見積もりを受け取ったら、まずは、燃料費調整額が明記されているか、あるいは、「燃料費調整額及び再生可能エネルギー発電促進賦課金はエリア電力会社様と同単価にてご請求させて頂きます」といった文言が記載されているかを確認しましょう。どちらも記載されていない場合は、改めて燃料費調整額を確認できる見積書を依頼すると共に、契約しようとしている電力会社のWebサイトなどで燃料費調整単価が公表されているか確認してみてください。経済産業省が制定した「電力の小売営業に関する指針」では、燃料費調整額が含まれる料金プランで小売供給を行う場合に、その仕組みや料金変動のリスクなどを需要家に対し分かりやすく公表することを電力会社の努力義務としています。Webサイトなどで燃料費調整単価を確認すると共に、燃料費調整単価が公表されていることを電力会社を選ぶ一つの指標とすると良いでしょう。
※参考:経済産業省. 「電力の小売営業に関する指針」. https://www.meti.go.jp/press/2022/04/20220401005/20220401005-1.pdf , (2023-12-12)
伊藤忠エネクスの燃料費調整単価
03-4233-8055 平日 9:00~17:30見積もりやWebサイトに記載された燃料費調整額が高いか安いかは、旧一般電気事業者の燃料費調整単価との比較により判断できます。例えば、2024年1月度の旧一般電気事業者の燃料費調整単価は、以下の通りです。
旧一般電気事業者 | 高圧(1kWhにつき) | 特別高圧(1kWhにつき) |
---|---|---|
北海道電力 | ▲11円77銭 | ▲9円71銭 |
東北電力 | 2円93銭 | 4円57銭 |
東京電力エナジーパートナー | ▲4円72銭 | ▲2円83銭 |
中部電力ミライズ | ▲2円26銭 | ▲48銭 |
北陸電力 | ▲8円08銭 | ▲6円18銭 |
関西電力 | 2円12銭 | 3円87銭 |
中国電力 | ▲8円07銭 | ▲6円12銭 |
四国電力 | ▲7円14銭 | ▲5円21銭 |
九州電力 | 67銭 | 2円43銭 |
沖縄電力 | ▲12円47銭 | ▲9円25銭 |
※北海道電力と東京電力エナジーパートナーは、燃料費調整単価に「離島ユニバーサル調整単価」と「市場価格調整単価」を加えた、「燃料費等調整単価」を記載しています
※国が実施する電気・ガス価格激変緩和対策事業により、高圧の燃料費調整単価(燃料費等調整単価)には、1円80銭/kWhの値引きが適用されています
同じエリアの燃料費調整単価を確認し、お手元の見積書と比べてみてください。
※参考:ほくでん. 「過去の燃料費調整単価等一覧」. https://www.hepco.co.jp/home/price/system/system03_list.html , (2023-12-12)
※参考:東北電力. 「燃料費調整単価等のお知らせ」. https://www.tohoku-epco.co.jp/dprivate/attempt/adjust/adjust_value/ , (2023-12-12)
※参考:東京電力エナジーパートナー. 「燃料費調整単価等一覧」. https://www.tepco.co.jp/ep/private/fuelcost2/newlist/index-j.html , (2023-12-12)
※参考:中部電力ミライズ. 「燃料費調整単価」. https://miraiz.chuden.co.jp/business/electric/contract/fuelcost/unitprice/ , (2023-12-12)
※参考:北陸電力. 「燃料費調整制度」. https://www.rikuden.co.jp/nencho/ , (2023-12-12)
※参考:関西電力送配電. 「燃料費調整単価と市場価格調整単価」. https://www.kansai-td.co.jp/consignment/agreement/fuel-cost-adjustment-rate.html , (2023-12-12)
※参考:中国電力. 「燃料費等調整制度のご案内〔法人のお客さま・中国電力エリア〕」. https://www.energia.co.jp/elec/seido/nencho/index_d.html , (2023-12-12)
※参考:四国電力. 「燃料費調整制度・単価表」. https://www.yonden.co.jp/customer/price/fuel_adjustments.html , (2023-12-12)
※参考:九州電力. 「燃料費調整単価(高圧・特別高圧供給、2024年1月分)」. https://www.kyuden.co.jp/agreement_adj_2024-1kouatsu.html , (2023-12-12)
※参考:沖縄電力. 「2024年1月分の電気料金に適用する燃料費等調整単価」. https://www.okiden.co.jp/common/adjust/backnumber/article/231129.html , (2023-12-12)
高圧電力の電気料金には、さまざまな項目が含まれています。新電力はそのほとんどの単価を自由に決められるため、同じ使用電力量でも契約する電力会社や料金プランによって、実際の電気料金は大きく変わります。しっかりと見積もりの内容を確認しなければ、電力会社の乗り換えによって電気料金が安くなるはずが、かえって高くなってしまう可能性もあるため、注意が必要です。特に見落としがちな燃料費調整額は、必ずチェックしましょう。
伊藤忠エネクスは、毎月の燃料費調整単価をWebサイト上で公表しています。またお見積もりの際には、燃料費調整額を含めた料金の詳細を、しっかりとご説明いたします。電気を使用するエリアや使用量に応じた適切な料金プランをご提案いたしますので、電力会社の乗り換えや新規契約をご検討中の企業のご担当者さまは、ぜひお気軽にご連絡ください。
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