脱炭素社会の実現へ向けて、政府や自治体、発電事業者だけではなく、一般企業にもさまざまな環境対策の取り組みが求められています。一般企業が行える施策のうちの一つが、非化石価値取引市場での非化石証書の購入です。
本記事では、非化石価値取引市場や取引される非化石証書について詳しく解説します。脱炭素経営に取り組んでいる、あるいは、これから取り組もうとしている企業のご担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
※本記事の内容は2024年5月時点の情報です
目次
非化石価値(環境価値)とは、「発電時に、二酸化炭素を排出しない環境に優しい方法で作られた電気である」という付加価値のことです。
石油や石炭、LNGといった化石燃料によって発電された電気は、発電時に二酸化炭素を排出するため、電気そのものの価値(kWh価値)だけを有しています。
一方、非化石エネルギーによって発電された電気は、発電時に二酸化炭素を排出しないため、電気そのものの価値の他に、非化石価値を有しているのです。
そもそも非化石エネルギーとは、再生可能エネルギーや原子力といった、化石燃料以外のエネルギー源のことです。主に以下のようなエネルギー源を指します。
など
非化石証書は、非化石エネルギーから発電された電気が有している非化石価値(環境価値)を証書化したものです。市場で売買でき、小売電気事業者が非化石証書を購入すれば、購入した分だけ、販売する電気のCO2排出量が少なくなるとみなされます。
また一般企業が非化石証書を購入すれば、購入した分だけ、使用する電気のCO2排出量が少なくなるとみなされ、脱炭素経営に取り組んでいるという姿勢を世間に示すことができます。
2024年現在、世界規模で地球温暖化への対策が求められています。非化石証書制度は2018年より、環境対策の一つとして主に以下の理由で導入されました。
エネルギー供給構造高度化法(高度化法)とは、2009年に制定された非化石エネルギー源の利用を促す法律です。
高度化法では、日本でエネルギーを供給している小売電気事業者に対し、2030年までに非化石エネルギーによって発電された電気の比率(非化石電源比率)を44%以上にするよう定めています。しかし、発電所を所有していない中小規模の小売電気事業者は、電力の調達を市場に頼るしかないため、高度化法の目標を達成することは難しいケースが多いのです。
そこで導入されたのが、非化石証書制度です。非化石エネルギー由来の電気の価値を可視化して売買できるようになったことで、設備投資をしなくても、非化石電源比率を上げられるようになり、多くの小売電気事業者で高度化法の目標達成の可能性が高まりました。
※資源エネルギー庁.「エネルギー供給構造高度化法の中間目標の策定について」.https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/032_04_03.pdf ,(2019-05-31).
日本では再生可能エネルギーを普及させるために、全ての需要家が「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」を負担しています。再エネ賦課金は電力会社がFIT制度で再エネ由来の電力を買い取る際に要する費用を賄うもので、電気料金の値上がりが続く昨今、需要家の大きな負担となっています。
非化石証書制度を導入すれば、証書の売上の一部が再エネ賦課金の原資となるため、単価が下がって需要家の負担を減らせるのです。
非化石証書と似たものとして、グリーン電力証書とJ-クレジットがあります。どちらも環境価値を可視化して取引できるようにするものですが、それぞれちがいがあります。
非化石証書 | グリーン電力証書 | J-クレジット | |
売り手 | 発電事業者、低炭素投資促進機構 | 証書発行事業者 | 経済産業省・環境省・農林水産省 |
買い手 | 小売電気事業者、(一部)需要家 | 小売電気事業者、需要家 | 小売電気事業者、需要家 |
対象電源 | 非化石エネルギー由来の電源 ※再生可能エネルギー由来以外の非化石電源(電子力など)も含む | 再生可能エネルギー由来の電源のみ | – ※二酸化炭素の排出量の削減・吸収量が対象 |
取引形態 | 取引所オークション | 証書発行事業者から直接購入 | 売り出しオークション |
転売 | × | × | 〇 |
グリーン電力証書は再生可能エネルギー由来の電気の環境価値についての証書で、発行事業者が第三者機関である一般財団法人日本品質保証機構の認証を得た上で、発行・取引をします。
非化石証書とグリーン電力証書の大きな違いは、対象となる電気にあります。非化石証書は「二酸化酸素を排出しない非化石電源で発電された電気(再生可能エネルギーはもちろん、原子力発電の電気なども含む)」を対象とする一方で、グリーン電力証書は「再生可能エネルギーによって発電された電気」のみを対象とする点が大きく異なります。
J-クレジットは、国が二酸化炭素の排出削減量や吸収量をクレジットとして認証する制度です。非化石証書とJ-クレジットの大きな違いは、創出できる対象者にあります。非化石証書は発電事業者や低炭素投資促進機構のみが創出できる一方で、J-クレジットはどのような事業者であってもクレジットを創出・取引可能です。
また非化石証書やグリーン電力証書は購入者のみが使用できるものですが、J-クレジットは購入者がさらに転売することもできます。
※資源エネルギー庁.「非化石価値取引市場について」.https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/049_04_00.pdf , (2021-04-15).
※日本品質保証機構(JQA).「グリーンエネルギー認証」. https://www.jqa.jp/service_list/environment/service/greenenergy/ , (2024-05-30).
※J-クレジット制度.「J-クレジット制度について」. https://japancredit.go.jp/about/outline/ , (2024-05-30).
非化石価値取引市場とは、その名の通り、非化石証書を取引するための市場です。2018年に「日本卸電力取引所(JPEX)」によって開設され、当初は小売事業者向けの市場でしたが、需要家の脱炭素化へのニーズが増加したことで見直され、現在は以下の2つの市場に分かれています。
再エネ価値取引市場は、売り手である低炭素投資促進機構(GIO)から、小売電気事業者と需要家が非化石証書を直接購入できる市場です。「RE100」への参加など、需要家の再エネ由来の電気の必要性が高まってきたことを受け、2021年11月に開設されました。
RE100とは「Renewable Energy 100%」の略称で、企業が事業活動で使用する電気を100%再エネ由来のものにすることを目指す、国際的な組織です。電気を使用する側が結集して再生可能エネルギーの必要性を訴え、非化石エネルギー由来の電気を使用することで、電気を供給する側が再エネ由来の電力の開発に取り組み、政府・関係機関がそれに応じた制度を作り出す、という循環を生み出すことを目的としています。
再エネ価値取引市場の取引対象は、FIT電源です。FIT電源とは、再生可能エネルギー由来の電源で、かつ、「FIT制度」によって買い取られたものを指します。
高度化法義務達成市場は、市場が2つに分かれる前の非化石価値取引市場を引き継いだ市場で、先述した高度化法が定めている小売電気事業者の非化石電源比率目標を達成することを目的としていることから、小売電気事業のみが非化石証書を購入できます。
高度化法義務達成市場の取引対象は、非FIT電源です。非FIT電源とは、再生可能エネルギー由来の電源のうち、FIT制度の適用を受けていないものを指します。
非化石証書は3種類に分けられ、対象の電源や証書を売買する主体などが異なります。
FIT非化石証書(再エネ指定) | 非FIT非化石証書(再エネ指定) | 非FIT非化石証書(再エネ指定なし) | |
対象電源 | FIT電源(太陽光、風力、バイオマス、小水力、地熱) | 非FIT再エネ電源(卒FIT、大型水力など) | 非FIT非化石電源(原子力、ごみなど) |
証書の売り手 | 低炭素投資促進機構(GIO) | 発電事業者 | 発電事業者 |
証書の買い手 | 小売電気事業者、需要家 | 小売電気事業者 | 小売電気事業者 |
取引される市場 | 再エネ価値取引市場 | 高度化法義務達成市場 | 高度化法義務達成市場 |
価格の決定方式 | マルチプライスオークション | シングルプライスオークション | シングルプライスオークション |
FIT非化石証書(再エネ指定)は、FIT制度で買い取られた電気の環境価値に対する非化石証書です。対象となる電気は、太陽光発電や風力発電、水力発電、バイオマス発電、地熱発電などが挙げられます。
FIT非化石証書の売り手は、FIT法に基づく費用負担の調整機関である低炭素投資促進機構(GIO)で、再エネ価値取引市場にて、マルチプライスオークション方式で取引されます。マルチプライスオークション方式の詳細については後述します。
非FIT非化石証書(再エネ指定)は、FIT制度で定められた買取期間を過ぎた電気(卒FIT)や、FIT制度の対象とならない電気(大型水力発電)の環境価値に対する非化石証書です。
非FIT非化石証書(再エネ指定)の売り手は発電事業者で、高度化法義務達成市場にて、シングルプライスオークション方式で取引されます。シングルプライスオークション方式の詳細については後述します。
非FIT非化石証書(再エネ指定なし)は、FIT制度で買い取られない非化石発電で作られた電気の環境価値に対する証書です。
前述した非FIT非化石証書(再エネ指定)と異なる点として、再エネ由来ではない電気が対象となることが挙げられます。具体的には、原子力発電や廃プラスチックを利用したごみ発電などです。非FIT非化石証書(再エネ指定)の売り手は発電事業者で、高度化法義務達成市場にて、シングルプライスオークション方式で取引されます。
再エネ価値取引市場と高度化法義務達成市場では、オークションの方式が異なります。
再エネ価値取引市場では、FIT非化石証書(再エネ指定)がマルチプライスオークション方式で取引されます。
マルチプライスオークション方式とは、売り手が価格を提示せずに出品し、買い手が希望価格を示すものです。売り手と買い手の合意に基づいて価格が成立するため、需要と供給に応じて価格が変動します。
高度化法義務達成市場では、非FIT非化石証書(再エネ指定)と非FIT非化石証書(再エネ指定なし)が、シングルプライスオークション方式で取引されます。
シングルプライスオークション方式では、入札価格に関わらず、全ての参加者が約定価格(シングルプライス)で取引を行います。全ての入札情報をもとに、売り注文と買い注文が交差する点を算出し、その価格が約定価格となります。
一般企業が非化石証書を購入すれば、購入した分だけ、使用する電気のCO2排出量が少なくなるとみなされるため、多くの企業が「RE100」などへの申請に活用しています。
先述した通り、RE100は事業活動で使用する電気を100%、再エネ由来のものにすることを目指す国際的な組織で、RE100に参加することでGHG排出量の削減に貢献でき、投資家や顧客に対して、脱炭素経営に取り組んでいることをアピールできるでしょう。
ただし、非化石証書をRE100に使用する場合は、1つ注意点があります。それは、発電所の所在地や設備の環境負荷などの情報が明らかになっている「トラッキング付きの非化石証書」でなければならない点です。なお、トラッキング付きの非化石証書のトラッキング費用は、現在は国が負担していますが、今後の需要の伸びに合わせて有償になる可能性があります。
一般企業の場合、再エネ価格取引市場に参加すれば、FIT非化石証書(再エネ指定)を購入できます。ただし、非化石証書を購入するためにはJEPX市場の会員になる必要があり、非化石証書の購入費用とは別にJEPX市場の入会金や年会費がかかります。
また取引オークションのスケジュールや入札期間は、事前に決まっています。JEPXが年度ごとにスケジュールを公開しているので、購入を検討している方は、チェックしてみてください。
※JEPX.「取引概要 | 非化石価値取引」.https://www.jepx.jp/nonfossil/outline/ , (参照 2024-05-13).
代理購入事業者を通して非化石証書を購入する方法もあります。代理購入事業者に支払う手数料が加わるため、直接購入よりも費用がかかる傾向にありますが、以下に挙げるような手間の掛かる業務を代理購入事業者が行ってくれるため、スムーズに非化石証書を調達できます。
伊藤忠エネクスでは、お客さまの使用電力量に合わせて、「トラッキング付きのFIT非化石証書(再エネ指定)」を調達することができます。RE100に対応した「運転開始から15年以内の発電所」由来の非化石証書の調達も可能ですので、非化石証書の購入を検討している企業のご担当者さまは、お気軽にご相談ください。
環境価値オプション
03-4233-8041 平日9:00〜17:302050年のカーボンニュートラルへ向けて、脱酸素経営に取り組んでいる企業も多いと思います。電気のGHG排出量を削減したい場合、電力会社が提供している環境価値のある電気料金プランを契約するのが一般的ですが、こういった料金プランが脱炭素化に関する全ての枠組みに対応しているわけではありません。例えば、RE100に参加するには、先述した通り、トラッキング付きのFIT非化石証書(再エネ指定)が必要です。
しかし、非化石価値取引市場で一般企業が非化石証書を直接購入するには、さまざまな対応が必要で、手間が掛かります。スムーズに非化石証書を調達したいという場合は、ぜひ、伊藤忠エネクスの環境価値オプションをご利用ください。
また自社の再エネ比率を高めたいという場合には、自家消費型太陽光発電システムのTERASELソーラーを導入するという方法もあります。伊藤忠エネクスの法人向け電力販売サービス「TERASELでんき for Biz」と併せてご契約いただければ、使用電力を100%再生可能エネルギーにすることも可能です。脱炭素経営の取り組みについても、貴社に適したご提案ができますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
TERASELソーラー(自家消費型太陽光発電システム)
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