2024年現在、中小企業では経営者の高齢化が進んでおり、中には後継者を見つけられずに廃業を選択する企業もあります。廃業は経営者自身はもちろん、従業員や顧客にも大きな影響が出るため、なるべく事業を継続したいと考えている方が多いでしょう。そんなお悩みを解決できるのが、事業承継です。
事業承継は企業の将来を左右する重大な選択肢であるものの、「具体的にどのように進めればよいか分からない」「後継者候補となる人物が身近にいない」「事業承継について相談できる相手がいない」といった悩みを抱えている経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、事業承継の概要や中小企業の経営者が把握しておくべき現状、廃業をした場合の影響、事業承継の種類や主な流れについて解説します。
※参考:中小企業庁.「事業承継を知る」.https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/know_business_succession.html , (2024-07-18).
目次
事業承継とは、企業の経営権や経営資源などを現在の経営者から後継者に引き継ぐことです。経営者にとって長年尽力してきた事業を引き継ぐことは、「最後の大仕事」といわれています。
「承継」と似た言葉には「継承」がありますが、承継と継承ではそれぞれ意味合いが異なります。
事業承継は事業そのものだけでなく、これまで培ってきた知識や技術、企業理念などを含めて、後継者へバトンを渡す取り組みだといえるでしょう。
事業承継で後継者に引き継ぐ経営資源は、主に以下の3つに分けられます。
人(経営)の承継とは、経営者の地位や役割、経営権を後継者に引き継ぐことです。特に中小企業では、経営者の能力や資質が経営状況を左右します。経営者の素質があるのか、必要な知識や技術を有しているのかなどをしっかりと検討した上で、後継者を決めましょう。
経営の経験が少ない人を後継者にする場合は、育成の時間を十分に確保することが大切です。
資産の承継とは、経営に必要な資産を後継者に引き継ぐことです。具体的には、自社の株式や土地・建物といった事業用不動産、設備資金、運転資金、借入金などが挙げられます。
資産を引き継ぐ際には、契約書の作成や税金の申告など、さまざまな手続きが必要です。多額の税金が発生する可能性もあるので、抜け漏れがないよう税理士などの専門家に相談し、慎重に対応しましょう。
知的資産の承継とは、企業が持っている目には見えない無形の資産を後継者に引き継ぐことです。具体的には、企業理念や事業に関わる知識・ノウハウ、取引先からの信用、人脈・顧客情報、特許・ブランドなどの知的財産権、組織のチームワークなどが挙げられます。
知的資産は一般的に企業の強みといえるものがほとんどで、適切に引き継がないと事業承継後に経営が停滞・悪化してしまう可能性があります。後継者に引き継ぐ前に、自社にどのような価値があるのかを改めて見直しておきましょう。
2024年現在、企業を発展させていくための事業承継のニーズは高まっています。ここからは、事業承継の現状について解説します。
※2024年7月時点の情報です
少子高齢化に伴い、日本では企業の経営者の高齢化が進んでいます。2023年時点の経営者の平均年齢は60.5歳で、過去最高を更新しました。企業の後継者不在率についても、改善はしているものの、依然として高い水準が続いています。2023年時点の後継者不在率は、以下の通りです。
経営者の年齢 | 後継者不在率(2023年時点) |
60代 | 38% |
70代 | 30% |
80代以上 | 23% |
また直近10年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、休廃業や解散をした企業が多いです。詳細は以下の通りです。
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
休廃業・解散をした企業数 | 33,475 | 37,548 | 41,162 | 40,909 | 46,724 | 43,348 | 49,698 | 44,377 | 49,625 | 49,788 |
「事業承継をする子どもがいない」「子どもはいるものの、子どもに事業を引き継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」など、約3割の企業は後継者がいないことを理由に廃業しているのが現状です。
※参考:中小企業庁.「事業承継を知る」.https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/know_business_succession.html , (2024-07-18).
※参考:株式会社帝国データバンク.「全国「社長年齢」分析調査(2023年)」.https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p240406.html ,(2024-07-18).
少子高齢化の影響もあり、2019年以降は子どもや親族に経営を引き継ぐ割合が減少しています。その一方で、従業員へ引き継いだり、第三者である別の企業とM&Aを実施したりする経営者の割合が増加傾向にあります。
帝国データバンクの「全国後継者不在率動向調査(2023年)」によると、2023年の速報値では、企業の役員や従業員への事業承継が35.5%となりました。この数値は2022年まで最も多くの割合を占めていた、子どもや親族への承継の33.1%を上回っています。M&Aについても、2022年では18.6%だったのが、2023年の速報値では20.3%と増加しています。
※参考:株式会社帝国データバンク.「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」.(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p231108.html ,(2024-07-18).
適当な後継者が見つからず、廃業を検討している経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
事業承継を行わずに廃業を選択する場合、さまざまな影響があることを認識しておく必要があります。廃業をすると事業そのものが終了するので、これまで共に働いてくれていた従業員を解雇しなければなりません。長年苦楽を共にした従業員を解雇するのは、精神的な負担がかかるでしょう。
万が一、解雇した従業員に恨まれてしまうと、社外へ会社の機密情報をばらされたり、残業代の未払いなどがある場合は訴訟を起こされたりする可能性もゼロではありません。そうならないためにも、事前にしっかりと周知をする、退職金や退職手当を支払うなどをして、従業員の不安をできるだけ払拭する必要があります。
また商品やサービスを提供できなくなるため、顧客・取引先に対してもマイナスの影響を与えてしまいます。その他、独自のノウハウやブランド、技術なども消失してしまうでしょう。
オフィスを構えているケースでは、賃貸であれば解約、所有しているのであれば土地や建物を売却するなどの対応が必要です。設備や在庫なども処分しなければなりません。これらの対応・手続きを行うのに、かなりの手間や時間、コストがかかってしまいます。
さらには資産を全て売却したとしても、借入金などの債務を返済しきれない可能性もあります。事業を清算した結果、債務が残ってしまったら家族や親族などに返済を肩代わりしてもらう必要が出てくるかもしれません。
このように廃業を選択した場合は、ご自身はもちろん、今まで働いてきた従業員や顧客・取引先、家族にまで影響が及ぶ可能性があるため、本当に廃業すべきか慎重に検討することが大切です。
一口に事業承継と言ってもいくつかの種類に分けられ、それぞれ引き継ぎ先やメリット・デメリットなどが異なります。ここからは、以下の3つの事業承継について詳しく解説します。
事業承継の際は、ご自身の希望や企業の目標、課題などに合わせて、適したものを検討してください。
親族内承継とは、子どもや孫、兄弟といった経営者の親族に事業を引き継ぐことです。事業承継を検討する際に、まずは身内に事業を引き継ぎたいと考える方は多いでしょう。事実2022年までの日本では、親族内承継を選択する中小企業が最多でした。親族内承継のメリットとデメリットは、以下の通りです。
これまで数世代にわたって親族内承継が行われてきた企業の場合、経営者の家族や親族に引き継ぐことが既定路線として考えられているため、後継者が従業員や取引先、金融機関などから受け入れられやすい傾向にあります。
また家族や親戚に引き継ぐことが前もって決まっていれば、早い段階から後継者候補に経営や事業に関する教育を行えるのも、親族内承継のメリットです。社内のさまざまな事業に携わらせたり、社外での経験を積ませたりして、しっかり準備できます。
経営者の子どもや孫、親族に後継者候補となる人物がいたとしても、実際に経営を任せられるかどうかは分かりません。「教育したものの、なかなか実力が付かない」「後継者候補である本人が、経営を引き継ぎたくないと考えている」というケースもあります。
また経営者が独断で後継者を決めてしまうと、後々親族間で経営権をめぐるトラブルに発展しかねません。親族が多くて後継者候補が複数人いる場合、誰が後継者になるのか親族同士で話し合うことが大切です。
従業員承継とは、親族以外の企業で働いている幹部や従業員に経営を引き継ぐことです。後継者候補には、一般的に共同創業者や役員、優秀な若手の幹部社員などが挙げられます。
経営者が実質的な決定権を持ったまま従業員に社長としての地位だけを譲るケースや、将来経営者の親族に引き継ぐための中継ぎとして従業員承継を実施するケースもあります。
従業員承継では、長年働いてきた従業員や優秀な従業員に経営を引き継ぐことが多いです。企業理念や経営方針、社風、企業の強みなどを理解している人材が後継者になれば、スムーズに引き継ぎを進められるでしょう。
また一般的に親族内承継と比較すると後継者候補が多く、比較・検討して適任者を選べます。これまでの働きぶりや貢献度、素質などを見て、後継者を選定しましょう。
経営者と従業員は、必要な資質やスキル、覚悟などが異なります。これまで従業員として優秀な成績を残してきた人材であっても、経営者に適しているかどうかは分かりません。しっかりと見極めないとトラブルが起き、承継してから後悔する可能性もあります。
資金面でも後継者にかかる負担が大きく、株式の取得に必要な資金を用意できないというケースもあります。このような場合は、自社株の評価額を下げる、後述する支援制度・事業承継税制を活用するといった方法を検討してみてください。
M&Aとは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略称ですが、日本では他の企業や創業希望者に会社を譲渡、引き継ぐことを指します。
一昔前は、M&Aは「大企業のみが行う取り組みで、中小企業には関係ない」「M&Aをすると、既存の従業員は解雇されてしまう」といったイメージが強い傾向にありました。
しかし、中小企業庁によると、M&Aを行っても従業員は雇用され続けるケースが大半であり、さらに事業承継後は労働生産性が向上しやすいというデータが出ています。国も支援体制を強化しているので、専門的な知識やノウハウがなくてもM&Aを進めやすいでしょう。
これらのことから、現在は中小企業や後継者候補が見つかっていない企業こそ、M&Aを行う価値があるという認知が広まってきています。またM&Aが成立するということは、第三者から見て引き継ぎたい資源があるということです。中小企業であっても次世代に引き継ぎたい資源がある場合は、ぜひM&Aを検討してみてください。
※参考:中小企業庁.「事業承継を知る」. https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/know_business_succession.html ,(2024-07-18).
M&Aの大きなメリットは、経営者の親族や従業員の中に後継者候補がいない場合でも、事業承継できる点です。外部の企業や創業希望者の中から、自社の事業に関心を持ち、理念に共感してくれる後継者を見つけることができます。企業の資本や人材、技術、ノウハウ、販路などをM&Aの相手に引き継ぐことができれば、これまで心血を注いで取り組んできた事業がさらに成長していく様子を見守れるでしょう。
また中小企業の多くは未上場のため、株式を現金に変えにくいという特徴がありますが、M&Aで株式譲渡をすれば一定の利益を確保できるでしょう。得られた利益は、引退後のセカンドライフの資金や、家族や親族のための資金に充てることもできます。
M&Aは譲渡先の選択肢の幅が広い一方で、経営者だけで希望に合った譲渡先を見つけることは難しいでしょう。適切な企業や創業希望者を見つけ、交渉を進めるには専門家のサポートが必要です。
また理念や文化、社風などが異なる相手に引き継ぐため、特に知的資産の承継には時間がかかるでしょう。根本の考え方や概念まで理解してもらうには、丁寧に引き継ぎを行わなければなりません。従業員や取引先に対しても、「なぜ当該の譲渡先を選んだのか」「事業承継後、企業や事業はどうなるのか」といったことを、適切なタイミングでしっかり説明をしましょう。説明が不十分だと、不信感を与えてしまう恐れがあります。
事業承継では、調査や手続きなどやるべきことが多岐にわたります。事前に流れを把握しておけば、計画が立てやすくスムーズに進められるでしょう。ここからは、事業承継の大まかな流れについて解説します。
事業承継の第一歩として、経営者自身が企業の経営状況や課題を可視化する必要があります。スムーズに事業承継を進めるために、自社の状況を整理してください。既に後継者候補がいるかや、株式譲渡によるM&Aを検討している場合、株式評価額はいくらになるかといったことも洗い出しましょう。
なお経営状況を把握するためには、以下に挙げるものを活用するのがおすすめです。
経営状況や経営課題などを全て可視化した後は、改善に向けて取り組んでいきます。以下の通り、組織と事業の2つの軸で改善を進めてください。
改善の軸 | 改善例 |
組織の改善 | 財務状況の改善 社内体制や業務フローの改善 マニュアルやルールの整備権限の委譲 など |
事業の改善 | 商品・サービスの改善 生産効率の向上 新規市場の開拓 ブランドイメージの向上 など |
経営状況や課題の可視化をし、改善のための取り組みを進めたら、並行して「事業承継計画」の策定を行います。事業承継計画とは、中長期的な経営方針や目標、方向性、事業承継の概要(承継方法、後継者の情報など)をまとめた上で、実際に事業承継の計画を立てていくためのロードマップのようなものです。事業承継計画を基に、経営権の譲渡や資産の移転を行います。
親族内承継や従業員承継を行う場合は、経営を引き継ぐ後継者候補と一緒に策定をするのがおすすめです。事業だけでなく、経営に当たってこれまで大切にしていた思いや理念などを含めて承継していけるよう、しっかりと計画を立てましょう。
M&Aによる事業承継を検討していて譲渡先の候補を探す際は、国が運営する公的相談窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」や民間のM&A仲介会社などに相談するのがよいでしょう。エネルギーに関するサービスを提供している事業者で事業承継を検討している場合は、エネルギー事業の専門知識が豊富にある伊藤忠エネクスに問い合わせるのもおすすめです。相談の際には、経営者自身がどのような条件で事業承継をしたいのか、譲れないポイントはどこかをまとめておいてください。
なお、希望に合った譲渡先の候補が見つかるまでには、時間がかかることが多いです。状況によっては数年かかるケースもあるので、余裕をもって臨むようにしましょう。
M&Aでは譲渡先の候補が見つかったら、決算書や事業報告書、組織図などの情報と、事業承継の基本条件を提示します。提示後に双方がさらに交渉を進めたい場合は、経営者同士のトップ面談(マッチング)が行われます。
トップ面談は、事業に関する疑問を解消するためだけではなく、経営を引き継ぐ側の人間性や理念などの確認のために実施されることが一般的です。事業承継計画で策定した中長期的な目標や方向性について、譲渡先の候補となる企業が理解・共感し、さらなる発展を目指せるのかどうかを見極めましょう。
また双方の企業が情報開示を行う際は、秘密保持契約を締結します。これらの手続きや対応については、事業承継・引継ぎ支援センターや民間の仲介会社といった専門家がサポートしてくれるので、不明点があれば担当者に相談してください。
トップ面談前後には、譲渡先の候補となる企業からM&Aを行う意向をまとめた意向表明書が提出されることもあります。M&Aを行いたい意思や希望価格、スケジュール、事業承継後の経営方針などの条件などがまとまっている重要な書類なので、詳細までしっかりと確認しましょう。
なお、意向表明書の提出後に基本合意書を取り交わすことがあります。基本合意書は最終的な契約内容ではありませんが、ここまでで双方の企業が合意した内容を記載します。意向表明書の提出を省いて、基本合意書のみを締結することも可能です。
M&Aでトップ面談を実施した後、双方の企業がM&Aの交渉を継続すると合意が取れた場合は、譲渡先の候補企業がデューデリジェンスを実施します。
デューデリジェンスとは、事業承継を行う予定の企業の価値やリスクなどを正しく把握するために行われる調査のことです。具体的には、数日間にわたって企業の資産・負債などに関する財務調査や、株式・契約内容に関する法務調査、営業状況・IT環境の調査など、さまざまな視点からチェックが入ります。
何か問題が見つかれば、譲渡価格が変わったり交渉が中止になったりする可能性もあります。調査がスムーズに進むよう、求められた書類について抜け漏れなく提示できるように準備しておきましょう。
調査の際には、さまざまなことを聞かれますが、不都合があったとしても隠ぺいするのはNGです。後になって発覚すると、信頼関係が崩れてしまい事業承継自体が成立しなくなる恐れもあります。
デューデリジェンスの結果を踏まえ、双方の企業が条件を再度提示して交渉を進めます。不明点や譲れない条件がある場合は、事業承継・引継ぎ支援センターや仲介会社などを通して、細かくすり合わせてください。
M&Aでは、デューデリジェンスが終わり譲渡先と希望条件の調整がついたら、最終的な契約の締結に進みます。最終契約書に記載される主な内容は、以下の通りです。
最終契約書はこれまでの交渉の中で確定した事項をまとめたものです。先述した意向表明書や基本合意書は法的拘束力を持ちませんが、契約締結後に最終契約書に書かれた内容に違反した場合は、損害賠償を請求される恐れもあります。
事業承継・引き継ぎセンターや仲介会社、弁護士などの専門家に契約内容をチェックしてもらい、認識に相違がないようにしましょう。
M&Aでは、最終的な契約が済んでから1カ月~1年程度の期間を空け、事業承継の対象である株式や事業などの引き渡しを行います。親族内承継や従業員承継の場合は、後継者の教育が完了したタイミングで、経営権や資産の譲渡を行ってください。
さまざまな手続きが必要になるので、弁護士や税理士、公認会計士などにサポートをしてもらいましょう。契約締結後に行われる主な手続きは、以下の通りです。
手続き | 概要 |
財務諸表の確定・調整 |
|
所有権・契約周りの移転 |
|
許認可の取得 |
|
親族や従業員への承継を含む全ての種類の事業承継において、最後には税金を納めなければなりません。譲渡した側が法人であれば法人税、個人であれば所得税や住民税などがかかります。またM&Aの場合は、各種届出や引き継ぎの完了後に対価の支払いが発生します。事業承継を行った経営者は、譲渡所得を得られるでしょう。
なお譲渡した側が法人であれば、事業年度が終了した日の翌日から2カ月以内に納税をしなければなりません。譲渡した側が個人であれば、契約締結をした日の翌年に確定申告を行います。ただし、契約を締結した年の損失が利益を上回っている場合は、確定申告は不要です。
事業承継は、企業の将来を左右する大きな決断です。後悔しないためにも、事業承継を検討している経営者の方は、ここからご紹介する注意点を押さえておきましょう。
先述した通り、事業承継は時間がかかるケースが多いです。
親族内承継や従業員承継の場合は経営者として育成するために、準備期間も含めると数年から10年程度かかるといわれています。M&Aの場合は、希望の条件に適した譲渡先を見つけるのに、数カ月~数年程度の時間がかかることが一般的です。引き継ぎなどには、さらに数カ月~数年かかります。
事業承継は数年単位で時間がかかるという認識で、早い段階から準備を進めておきましょう。
M&Aの交渉を進めているうちは、顧客・取引先や従業員などにその旨を伝えないようにしましょう。
契約が締結されていない段階で、M&Aを検討していることを顧客や取引先が知れば、「事業がうまくいっていないのではないか」と思われ、商品やサービスの解約につながってしまう可能性もゼロではありません。また従業員に知られれば「事業承継後に解雇されてしまうかもしれない」という不安を抱かれて、退職者が増えてしまうこともあります。
事業承継では株式の相続や贈与、売却の際に税金がかかります。事業承継の種類によってかかる税金が異なるので、注意しましょう。具体的には、以下の通りです。
事業承継の種類 | 主な税金 | 税率 |
親族内承継 | 相続税・贈与税 | 10~55% |
従業員承継 | 所得税・住民税 | 20%(所得税15%+住民税5%)※2037年までは所得税額に復興特別所得税(2.1%)も課される |
M&A(譲渡側が個人の場合) | 所得税・住民税 | 20%(所得税15%+住民税5%)※2037年までは所得税額に復興特別所得税(2.1%)も課される |
M&A(譲渡側が法人の場合) | 法人税 | 法人の種類や所得によって異なる |
また株式の譲渡で発生する利益を譲渡益として受け取るか、役員退職金として受け取るかで税率が変わります。退職金は退職所得控除が設けられていたり、他の所得と分離して課税されたりと負担が軽くなるように配慮されているため、譲渡益の一部を役員退職金として受け取るケースが多いです。
※参考:国税庁.「No.4155 相続税の税率」.https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm ,(2024-07-18).
※参考:国税庁.「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」.https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm ,(2024-07-18).
※参考:国税庁.「所得税及び復興特別所得税を計算してみよう」.https://www.nta.go.jp/taxes/kids/jissen/page08.htm ,(2024-07-18).
※参考:国税庁.「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm,(2024-07-18).
事業承継では経営者の親族や従業員が、後継者や譲渡先に対して不満を持つ可能性があります。
親族内承継や従業員承継の場合、経営権をめぐって裁判に発展したり、現経営者が亡くなってから遺産相続に関するトラブルが起きたりすることもあるでしょう。それによって親族同士の関係が悪くなる他、トラブル対応に時間を取られてしまい、経営がうまくいかなくなることもあります。
M&Aの場合も、親族や従業員との関係を良好に保つことが大切です。最終的な契約締結後に関係者全員を集め、事業承継をする旨を伝えるのがよいでしょう。不安を抱かせないためには質疑応答の時間をきちんと設け、不明点に対して丁寧に回答することが大切です。
後継者・譲渡先について納得してもらえるよう、専門家に相談しながら適切なタイミングで話し合いをしましょう。
中小企業は日本の全企業の99.7%を占めており、経済や社会、生活を支える、なくてはならない存在です。経営者の高齢化や企業の廃業数が深刻化している現在、日本では国として事業承継を促進するためのさまざまな取り組みを実施しています。
ここからは、事業承継の支援制度を2つご紹介します。
※内閣府.「基本的考え方」.https://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihui013/sanko3_2.pdf ,(2024-07-18).
事業承継引継ぎ補助金とは、事業承継に関わる経費の一部について補助を受けられる制度のことです。いくつかの種類に分けられており、事業承継を行う予定の企業または事業承継を行った企業は、以下に挙げる補助金を受け取れる可能性があります。
<事業承継をする企業向け>
申請類型 | 種類 | 要件 | 補助上限額 |
専門家活用事業 | 【Ⅱ型】売り手支援型 | 自社が有する経営資源を譲る予定の中小企業であり、以下を満たしている 地域の経済を牽引する事業を行っており、事業再編・事業統合によって引き継がれることが見込まれる | 600万円以内 ※補助事業期間内にM&Aが完了しなかった場合は300万円以内 |
<後継者・譲渡先の企業向け>
申請類型 | 種類 | 要件 | 補助上限額 |
経営革新事業 | 【Ⅱ型】経営者交代型 |
以下を全て満たしている 親族内承継や従業員承継などの事業承継を行う後継者・譲渡先が経営に関して一定の実績や知識を有している | 600万円以内 |
【Ⅲ型】M&A型 |
以下を全て満たしている 事業再編や事業統合などのM&Aを行う後継者・譲渡先が経営に関して一定の実績や知識を有している | 600万円以内 |
M&Aでは「M&A支援機関登録制度」に登録されているM&Aの専門家・仲介会社に依頼する際の手数料や、デューデリジェンスに関する費用といった経費などが補助対象になります。一方で、親族内承継や従業員承継では、事業承継自体にかかる費用は補助金の対象とはなりません。対象となるのは業承継後の設備投資のみである点に注意しましょう。
※参考:事業承継・引継ぎ補助金事務局.「事業承継・引継ぎ補助金」.https://jsh.go.jp/ ,(2024-07-18).
事業承継税制とは、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づき、後継者が相続や贈与によって取得した自社の株式にかかる贈与税・相続税の納税猶予を受けられる制度のことです。要件を満たせば、猶予された税を免除してもらうこともできます。事業承継税制を活用すれば、贈与税や相続税の負担を軽減できるでしょう。
事業承継税制には一般措置と特例措置があり、要件や猶予される株式数が異なります。詳細は以下の通りです。
一般措置 | 特例措置 | |
対象企業 |
|
|
事前の計画策定 | なし | 特例事業承継計画を提出 ※適用期限:2026年3月31日まで |
事業承継の適用期限 | なし | 2027年12月31日まで |
対象株式数 | 総株式数の最大3分の2まで | 全株式 |
対象者 | 後継者1人 | 全ての株主の中から、代表者である後継者(最大3人) |
※参考:中小企業庁.「法人版事業承継税制(特例措置)」.https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html ,(2024-07-18).
伊藤忠エネクスは、半世紀以上にわたりエネルギー事業を手掛けている"エネルギー総合商社"です。LPガスなどのエネルギー分野の事業を展開している企業で「後継者が見つからない」「将来について相談できる相手がいない」とお困りの場合は、ぜひお気軽に伊藤忠エネクスへご相談ください。
株式譲渡による経営権の譲渡はもちろん、エネルギー事業の営業権のみの譲渡や、業務委託でのサポートも可能です。各企業の状況や課題を丁寧にヒアリングして、適切な選択肢や方法をご提案します。
伊藤忠エネクスが携わった、LPガス事業の事業承継の事例を簡単にご紹介します。より詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。
事例1 | 区分 | 株式譲渡 |
対象地域 | 中国 | |
顧客数 | 4,000軒 | |
事例2 | 区分 | 営業権譲渡 |
対象地域 | 九州 | |
顧客数 | 1,000軒 | |
事例3 | 区分 | 営業権譲渡 |
対象地域 | 四国 | |
顧客数 | 400軒 |
事業承継を実施するかどうかや、誰にどのように引き継ぐのかは、企業の存続に関わる大きな決断です。経営者自身だけではなく、家族や親族、企業で働く従業員、顧客・取引先などにも影響を与える取り組みとなるので、早い段階からしっかりと検討・準備をしなければなりません。
また事業承継を進めるには費用や時間がかかる上に、専門的な知識も必要です。1人で悩むのではなく、国が運営する事業承継・引き継ぎセンターや民間のM&A仲介会社、弁護士、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。LPガス事業を展開している企業の場合は、ぜひ、伊藤忠エネクスにお問い合わせください。
伊藤忠エネクスでは、LPガス事業の事業承継に関するサポートを行っています。エネルギー商社として60年以上の実績があり、企業の課題や希望に適した解決策をご提案できます。LPガス事業を行っている企業で、後継者がいない、業界の先行きが不安など、経営や将来に関してお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。直近の課題から将来の見通しまで、LPガス事業の経営に関するお悩みであれば、事業承継以外でもご相談いただけます。
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