高圧電力の固定単価プランと市場連動型プランとは? メリット・デメリットを徹底解説
事業運営に多量の電力を必要とする企業にとって、電気料金の高騰は頭の痛い問題の一つです。政府が行っている「電気・ガス価格激変緩和対策事業」による電気料金の値引きが2024年5月使用分をもって終了することから、以降の電気料金がどの程度値上がりするのか不安に思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今後の電気料金を見通すなら、どのような事象が電気料金に影響を与えるのかを知る必要があるでしょう。本記事では、電気料金の高騰に影響を与える要素や過去の電気料金高騰の事例について解説します。2024年の電気料金の見通しや、この先も生き残れる優良新電力の条件についてもご紹介しているので、電力会社の乗り換えを検討している企業のご担当者さまは、ぜひ参考にしてみてください。
※本記事の内容は2024年5月時点の情報です
電気料金が高騰する要因は一つではありません。また契約しているプランによって電気料金の計算方法が異なるため、当然、影響を受ける要素も異なります。本記事では、現在主流となっている固定単価プラン(従来の料金プラン)と市場連動型プランにおける、電気料金に影響を与える要素を解説します。
高圧電力の電気料金は、以下の計算式で求められます。
電気料金 = 基本料金(基本料金単価 × 契約電力 × 力率割引および割増)
ㅤㅤㅤㅤ + 電力量料金(電力量料金単価 × 使用電力量)
ㅤㅤㅤㅤ + 燃料費調整額(燃料費調整単価 × 使用電力量)
ㅤㅤㅤㅤ + 再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金単価 × 使用電力量)
固定単価プランにおいて、使用電力量以外で電気料金が上がる要因となりやすいのが燃料費調整額です。
火力発電大国である日本は、化石燃料への依存度が高く、そのほとんどを諸外国からの輸入に頼っています。原油や液化天然ガス(LNG)、石炭などの燃料の調達価格は世界のエネルギー市場の動向や為替レートによって大きく変動するため、この金額の幅を燃料費調整額という項目で電気料金に反映させているのです。
つまり、固定単価プラン(従来の料金プラン)の場合は、以下の要素が電気料金に大きく影響を及ぼします。
なお、燃料費調整単価は、3〜5カ月前の燃料の貿易統計価格に基づき算定されます。例えば、4月分の燃料費調整単価は、前年11月~1月の燃料の貿易統計価格に基づき算定されるのです。逆に言えば、現在の燃料価格や為替レートを知っていれば、4〜6カ月後の電気料金を見通せるということです。
市場連動型プランは、日本で唯一卸電力を売買できる市場「日本卸電力取引所(JEPX)」の約定価格(市場価格)に応じて、30分ごとに電力量料金単価が変動するプランです。市場連動型プランの電気料金は、以下の計算式で求められます。
電気料金 = 基本料金(基本料金単価 × 契約電力 × 力率割引および割増)
ㅤㅤㅤㅤ + 電力量料金(電力量料金単価 × 使用電力量)
ㅤㅤㅤㅤ + 再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金単価 × 使用電力量)
電気の市場価格は入札によって決まりますが、以下のようなさまざまな要素が価格に影響を与えます。
高圧電力の固定単価プランと市場連動型プランについては、以下の記事で詳しく解説しています。
先述した要素によって実際に電気料金が高騰した事例を2つご紹介します。
2020年12月~1月にかけて、市場価格が一時最高価格250円/kWhを超える水準で高騰。2005年の電気の市場取引開始以来、初めて1日の平均価格が100円/kWhを超える事態となり、多くの新電力や需要家が影響を受けました。この市場価格の高騰が起こった原因を、時系列でご紹介します。
2022年は、世界各地で燃料価格の高騰が起こりました。その大きな要因は、ロシアによるウクライナ侵攻です。ロシアは2021年時点で、LNGの輸出量で世界第1位、原油や石炭の輸出量でもトップ3に入るほどのエネルギー輸出大国です。特に欧州は天然ガスの輸入をロシアに依存しており、調達先を他の産出国へ変更した結果、市場全体の供給バランスが崩れて世界的なLNG価格の高騰につながりました。
また2022年5月9日に行われたG7首脳会合にて、対ロシア制裁措置としてロシア産原油の輸入を禁止する方針となったことで、LNG同様、原油も他産出国への注文が殺到し、燃料価格が高騰しました。
さらに日本では、2022年3月ごろから円安が進み、4月下旬には20年ぶりに1ドル131円台に突入。円相場の円安進行もあり燃料の輸入費用が下がらず、市場価格や電気料金の高騰につながりました。
2021年、2022年と立て続けに発生した市場価格の高騰のあおりを受け、電力小売事業を維持できずに事業の休止や撤退をする新電力が増加しました。そのほとんどが自社の発電設備を持たない「小売専業」の新電力です。自社の発電設備を持たない新電力は、供給する電気の大半を市場から調達しており、市場価格の高騰により電力調達コストが大幅に増加。また当時は固定単価プランが主流で、市場価格の高騰をすぐに電気料金に転嫁することができず、増加した電力調達コストをもろに被るかたちになってしまったのが主な原因と考えられます。
2020年1月 | 2020年4月 | 2020年7月 | 2020年10月 | 2021年1月 | 2021年4月 | 2021年7月 | 2021年10月 | 2022年1月 | 2022年4月 | 2022年7月 | 2022年10月 | 2023年1月 | 2023年4月 | 2023年7月 | 2023年10月 | 2024年1月 | |
事業休止件数 | 2 | 3 | 3 | 4 | 4 | 5 | 14 | 14 | 14 | 14 | 18 | 26 | 32 | 37 | 43 | 44 | 46 |
事業廃止・ 解散・ 取り消し件数 | 16 | 20 | 25 | 27 | 33 | 38 | 38 | 42 | 48 | 61 | 71 | 75 | 86 | 96 | 97 | 99 | 104 |
合計 | 18 | 23 | 28 | 31 | 37 | 43 | 52 | 56 | 62 | 75 | 89 | 101 | 118 | 133 | 140 | 143 | 150 |
前月からの増加件数 | 0 | 5 | 5 | 3 | 6 | 6 | 9 | 4 | 6 | 13 | 14 | 12 | 17 | 15 | 7 | 3 | 7 |
※休止・廃止・解散・取り消し件数は、2016年4月以降の累計
※参考:経済産業省 資源エネルギー庁. 「電力小売全面自由化の進捗状況について」. https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/071_03_00.pdf , (2024-03-13).
2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻や円安はいまだに続いているものの、燃料価格や電気の市場価格は2023年の春ごろから比較的低い水準で落ち着いています。2024年もこのままの水準が続けば、電気料金の値上がりの波も落ち着くのではないでしょうか。JEPXからの電力調達を主とした新電力がまた新たに登場し、需要家の選択肢も増えるかもしれません。
しかし、世界は原油の調達に対して、大きなリスクを抱えています。2023年10月からガザ地区を巡るイスラエルとハマスの戦闘が本格化しており、2024年4月1日には、イスラエルが在シリアイラン大使館を空爆。イランの革命防衛隊幹部を含む7名が死亡したことに対して、革命防衛隊の海軍司令官は、反撃とホルムズ海峡封鎖の可能性を示唆しました。中東の原油はイランとアラビア半島の間にあるホルムズ海峡を通って世界へ運ばれるため、万が一封鎖されれば、ロシアによるウクライナ侵攻の時と同じように原油の奪い合いとなり、燃料価格の高騰は避けられないでしょう。日本は原油の輸入の9割を中東に依存しているため、その影響は計り知れません。イランは過去にも外交カードの一つとしてホルムズ海峡の封鎖を警告していますが、実行に移したことはありません。とはいえ、今回も脅しであるとは言い切れないため、引き続き戦闘の状況を注視しておく必要があります。
また日本の電力業界の大きな動きとして、2024年度から「容量市場」の実際の取引が始まります。容量市場とは、将来の供給力を確保するための市場で、必要なときに発電ができる設備を持つ発電事業者に対して、小売電気事業者、一般送配電事業者、配電事業者が容量拠出金を支払います。自社の発電設備を有している小売電気事業者であれば、容量拠出金を支払うと同時に受け取ることもできるため負担はほとんどありませんが、自社の発電設備を持たずに市場からの調達に依存している小売電気事業者には、容量拠出金の負担がそのままのしかかります。
新電力の新規参入によって価格競争が激しくなれば、容量拠出金を電気料金に上乗せすることも難しいでしょうから、再び撤退する新電力が増える可能性があります。
契約している小売電気事業者が何らかの理由で電力の供給を停止する場合、需要家は、供給停止日までに他の小売電気事業者との契約を締結する必要があります。乗り換え先が見つからなければ、標準的な電気料金プランよりも割高な最終保障供給の契約を締結しなければなりません。
このような事態に陥らないためにも、電力会社の乗り換えを検討しているなら、撤退リスクの少ない優良新電力に乗り換えるのがおすすめです。
安価な料金プランは大変魅力的ですが、先述した通り、電力会社を乗り換えるなら、撤退や倒産のリスクにも目を向ける必要があります。ここからは、この先、競争が激しくなったとしても生き残れる新電力の条件を3つご紹介します。
自社の発電設備を保有している電力会社は、市場からの調達量が少ないため、市場価格の変動の影響を受けにくいです。また先述した通り、容量拠出金の支払いと同時に受け取ることもできるため、負担はほとんどありません。事業を運営する上でのリスクが少なく、安定的に小売電気事業を継続していけるでしょう。
企業の資本力も重要なポイントです。先述した通り、燃料価格や電気の市場価格はさまざまな外部要因の影響を受けやすく、価格の高騰を先読みして対策をしたり、避けたりするのが困難なため、一時的な赤字状態でも耐え得る企業体力が求められます。
例えば、多角的な事業を行っており電力小売事業の赤字を補える体制になっている、規模の大きなグループ会社に属しておりグループ間で助け合いができるなどの条件が整っている企業は、生き残りやすいといえるでしょう。
エリア電力会社とは、2016年の電力小売全面自由化以前から、各エリアごとに電力を供給している旧一般電気事業者のことです。エリア電力会社は、電力事業のノウハウや安定性、長年地域に根差して事業を行ってきた実績があります。新電力がエリア電力会社とアライアンスを組むことで、安定性の向上や魅力的なサービスの拡大が期待できます。
国際情勢や気候変動など、世界はさまざまなリスクを抱えており、過去に起こったような燃料価格や電気の市場価格の高騰が再び起こらない保証はありません。電気料金が著しく高騰したり、新電力が撤退したりといった事態に見舞われないよう、企業は安定的に電力供給を行える優良新電力と契約を締結するべきです。
伊藤忠エネクスは、60年以上の歴史があるエネルギー総合商社です。水力・太陽光・石炭火力・天然ガスの4種類の発電施設を有しており、また2020年より、九州電力と高圧電力や特別高圧電力の電力小売事業に関して業務提携をしています。
伊藤忠エネクスのTERASELでんき for Bizは、お客さまの使用電力量やニーズに合った「オーダーメイド式プラン」で電力を供給しています。電気料金の削減はもちろん、電力会社の乗り換えのメリットを最大限得られるよう適切なプランをご提案いたしますので、新しい電気の契約先をお探しの企業のご担当者さまは、ぜひお気軽にご連絡ください。