4年後の電力供給力を取引する「容量市場」とは? 取引の仕組みやメリット・デメリットを徹底解説!

4年後の電力供給力を取引する「容量市場」とは? 取引の仕組みやメリット・デメリットを徹底解説!

伊藤忠エネクス メディア編集部

伊藤忠エネクスは1961年の創業以来 「 社会とくらしのパートナー」として 全国各地の地域に根ざし生活に欠かせないエネルギーをお届けしてまいりました。 老舗エネルギー商社ならではの情報を発信します。

2024年4月から実際の取引がスタートした容量市場は、将来の電力供給力を確保するために設立されました。容量市場によって電力業界はどのように変化し、また需要家に対しての影響はあるのでしょうか。

本記事では容量市場について詳しく解説します。電力業界においてメリットの多い容量市場ですが、需要家によっては悪い影響を受ける可能性もあります。企業の電気の契約を管理している方は、しっかりと仕組みを理解し、適切な対策を取れるようにしておきましょう。

※本記事の内容は2024年5月時点の情報です

容量市場とは?

容量市場とは?

容量市場とは、将来必要とされる電力供給力(kW)を効率的かつ安定的に確保するための市場です。実際に発電された電力(kWh)を取引するのではなく、4年後に必要とされる電力容量に対して供給可能な電源をオークション方式で取引します。

落札された発電事業者は電力供給力を確保しておき、4年後に実際に供給した電力量に応じて報酬を受け取ることができます。この報酬によって安定した発電所の運営が可能になり、電気料金の安定化や需要ピーク時の電力不足を防ぐことにつながります。

日本では2020年に容量市場が開設され、4年後の供給力、つまり2024年に供給可能な電源の確保を目的に、第一回目のオークションが行われました。

容量市場が導入された理由

海外では既に浸透している容量市場ですが、日本で導入が進んだ背景には、2016年の電力の小売自由化と再生可能エネルギーによる発電の普及が挙げられます。

電力の小売自由化で多くの新電力が参入したことにより、小売電気事業者の競争が活発化しています。その一方で、太陽光発電などの再生可能エネルギーが普及したことによる、発電事業者の売電収入の減少が懸念されています。発電設備へ投資をしても回収できる見通しが不透明になったため、新たな発電設備の建設や老朽化対策は、発電事業者にとってリスクが大きいといわれているのです。

しかし、再生可能エネルギーは天候や時間帯などによって発電量が大きく変動するため、需要に対して足りない電力は、火力発電などの必要な時に発電ができる電源で補う必要があります。

発電設備の不足や老朽化問題を放置していれば、夏や冬の電力需要ピーク時に供給力が足りなくなったり、電気料金が高騰したりするリスクが高まります。そのため、発電所の安定した運営に必要な資金を電力市場全体から集められる、容量市場が導入されたのです。

容量市場に参加できる電源

容量市場に参加できるのは、必要な時に発電ができる能力を持つ電源です。供給力として期待できる容量が1,000kWh以上あるものは、安定電源の区分に該当します。代表的な安定電源は以下の通りです。

  • 火力発電:日本の発電量の約8割を占める電源。安定性が高く、迅速な電力供給が可能
  • 水力発電:水を高いところから低いところへ落とす際の位置エネルギーを利用した電源。発電コストが安価
  • 原子力発電:国内で稼動している施設が少なく、発電量の割合は6.4%にとどまるものの、安定した電力供給が可能
  • 地熱発電:地中から取り出した水蒸気でタービンを回し発電する方法。昼夜問わず、安定した発電が可能
  • バイオマス・廃棄物発電:木くずや可燃性ゴミ、家畜の糞尿などを直接燃焼したりガス化して発電する方法。燃料が確保しやすく安定した発電量が見込める

これらの他に、期待容量が1,000kWh以上ある太陽光発電や風力発電、1,000kWh未満の電源を組み合わせることで期待容量が1,000kWhを超える変動電力(アグリゲート)も容量市場に参加が可能です。

※参考:経済産業省.「電力調査統計表-2022年度 発電実績」.
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/results_archive.html#r04 ,(2024-04-26)

一般企業もデマンドレスポンスで容量市場に参加可能

デマンドレスポンスで容量市場に参加する仕組み

大規模な発電施設を持つ発電事業者だけではなく、一般企業や自治体も「デマンドレスポンス」を利用して、容量市場に参加することが可能です。デマンドレスポンスとは、電力需要を供給量に合わせる取り組みのことで、一般的には節電要請に協力することで報酬を受け取ることができます。

容量市場に参加するには、需要家が持つエネルギーリソースを束ねる「アグリゲーター」と呼ばれる事業者を介してデマンドレスポンスに取り組みます。以下のような設備を持っている企業は、ぜひ、デマンドレスポンスへの参加を検討してみてください。

デマンドレスポンスで容量市場に参加できる設備該当企業例
自家発電機製造業、病院、商業施設など
蓄電池病院、介護施設、
ポンプ上下水道局、食品加工、宿泊施設など
電気とガスの切り替えができる冷暖房機器(チラー)商業施設、大型店舗など
冷凍設備食品加工工場、冷凍倉庫など

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容量市場の仕組み

容量市場の仕組み

容量市場においてはまず、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が、4年後の電力供給力と、気象や災害リスクを考慮した調達すべき電力容量を算定します。この調達すべき電力容量を賄うために、4年後に供給が可能な電源を募集し、オークション形式で価格が安い順に落札するのです。

オークションで落札された発電事業者は、4年後に実際に電力を供給をすることで対価(容量確保契約金額)を受け取ることができます。一方で、予定通りに供給ができない場合はペナルティが発生します。そのため発電事業者は、4年後の供給へ向けて、計画的に発電設備の新設やメンテナンスを進める必要があります。

容量拠出金/容量確保契約金額とは?

前述の通り、OCCTOは4年後の電力の供給実績によって、容量確保契約金額を発電事業者に支払います。OCCTOは容量確保契約金額の原資として、小売電気事業者・一般送配電事業者・配電事業者に対して容量拠出金を請求します。

各事業者の負担金額は1kWh当たり数円程度の見込みですが、容量拠出金の分だけ支出が増えることになります。そのため、容量市場の実際の取引が始まる2024年4月から、電気料金の改定を行った小売電気事業者もあるようです。

容量市場のメリット

容量市場のメリット

電力の使用量が多い需要家の中には、容量市場の導入を懸念している方もいるかもしれませんが、電力業界全体でさまざまなメリットがあります。

発電所を持っている事業者は容量確保契約金額を受け取れる

先述した通り、発電事業者は、4年後に実際の電力供給量に応じて容量確保契約金額を受け取ることができます。収入の見込みが立っているので、安心して発電施設の建設や老朽化の対応を進められるでしょう。

一般的に火力発電所の建設には、計画から運用開始まで10年かかるといわれています。電力需要がひっ迫したからといってすぐに増やせるものではないため、発電事業者には、容量確保契約金額を上手く活用して、将来の電力供給量を確保することが求められます。

電力の需給バランスの調整がしやすくなる

容量市場に参加できる電源(安定電源)は、安定的に1,000kW以上の電力供給が可能で、電力需要の変動に対応できる発電方式です。

原子力や石炭火力、一般水力、地熱など、一定量の電力を常時安定して発電できるベースロード電源や、天候や時間帯で発電量が変動しやすい太陽光発電や風力発電は、供給力を細かく調整することができません。LNG火力のように、必要な時に発電ができる能力を持つ設備が安定して稼動していることで、電力の需給バランスの調整が容易になるのです。

電気料金が安定しやすくなる

電気料金が高騰する要因はいくつかありますが、その一つに供給量の逼迫が挙げられます。発電所の故障や夏・冬に電力需要が増えると市場価格が高くなりやすく、需要家にも大きな影響を与えます。

容量市場が期待通りに機能し、火力発電や水力発電などが安定して稼動すれば、供給量の変動による電気料金の高騰を減らすことが可能です。電気料金が安定すれば、経営計画も立てやすくなるため、企業にとっても大きなメリットとなるでしょう。

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容量市場のデメリット

容量市場のデメリット

小売電気事業者や需要家にとっては、容量拠出金の負担がデメリットになる可能性があります。

小売電気事業者が電気を調達する際の費用負担が増える

OCCTOの定款により、小売電気事業者には、各エリアのH3需要に応じた容量拠出金の支払いが義務付けられています。H3需要とは、1カ月の毎日の最大電力(1時間平均)のうち、上位3日分を平均した需要のことです。小売電気事業者にとっては、容量拠出金の分だけ、電気を調達する際の費用負担が増えることになります。

発電設備を持たない小売電気事業者の電気料金が値上がりする可能性がある

先述した通り、小売電気事業者は容量拠出金を支払う必要がありますが、伊藤忠エネクスのように自社の発電施設を保有している場合は、同時に容量確保契約金額を受け取ることもできるので、実際の負担はほとんどありません。

一方で、自社の発電施設を持たない小売電気事業者の場合は、先述した通り、電力の調達費用が増えることになるため、その支出をどのように賄うのかを検討しなければなりません。中には、容量拠出金を制度負担金として電気料金に反映させる小売電気事業者もあるため、電気料金が値上がりする可能性があります。電気料金の改定などのお知らせが届いたら、内容をしっかり確認しましょう。

発電設備を持たない小売事業者が撤退する可能性がある

電気料金の価格競争が活発な現在の電力市場において、電気料金の値上げはリスクであるととらえる電力会社は、容量拠出金を自社で飲み込まざるを得ません。中には、利益が圧迫されて、事業撤退や倒産、廃業に追い込まれる新電力が出てくるかもしれません。

契約している小売電気事業者が電力の供給を停止する場合、需要家は供給停止日までに他の小売電気事業者と新たな契約を締結する必要があります。万が一、乗り換え先が見つからなければ、エリア電力会社の標準料金メニューよりも割高な「最終保障供給」の契約を締結しなければなりません。

このようなリスクを避けるためには、現在契約している小売電気事業者が容量拠出金にどのように対応するのかを注視しつつ、場合によっては、安定性の高い優良新電力に乗り換えるのがよいでしょう。

安定して電力を供給し続けられる新電力の条件とは?

では、安定性の高い優良新電力とは、具体的にどのような電力会社を指すのでしょうか。

例えば、以下のような新電力が該当します。

  • 自社の発電設備を保有している
  • 資本力がある
  • エリア電力会社とアライアンスが組めている

自社の発電設備を保有している

先述した通り、自社で発電設備を保有している電力会社は、容量拠出金の支払いと同時に容量確保契約金額を受け取れるため、容量市場の影響が少ないです。またJEPXへの依存度も低いため、市場価格の変動の影響を受けにくく、事業の安定性が高いといえます。

資本力がある

電力事業においては、容量市場のように、今後もさまざまな制度の見直しや改革が行われる可能性があります。容量拠出金のように電力会社が負担するものが増える場合に重要なのが、企業の資本力です。

例えば、多角的な事業を行っており、他の事業の収入で小売電気事業の負担増加を補える、大きなグループ会社に属しており、所属企業の間で赤字の補填ができるといった企業は、安定して小売電気事業を継続できるでしょう。

エリア電力会社とアライアンスを組めている

エリア電力会社とは、東京電力や関西電力といった、各地域ごとに電力供給を行っている10の事業者のことで、旧一般電気事業者とも呼ばれます。エリア電力会社には、長年地域の電力市場を独占してきた実績があり、もちろん、発電から供給までのノウハウも豊富です。エリア電力会社とアライアンスを組んでいる新電力なら、事業の安定性が高く、また魅力的なサービスの拡大も期待できるでしょう。

まとめ

容量市場には、将来にわたって電力を安定的に供給し続けるための大切な役割が期待されています。発電設備の新設やリプレイスが計画的に進めば、電気料金が安定し、また電力不足による停電リスクも下がるでしょう。

一方で、容量拠出金によって電気料金が値上がりしたり、小売電気事業者が撤退したりする恐れもあるため、契約している電力会社がどのように対応するのかはしっかり確認しておいた方がよいでしょう。

もしも、容量市場をきっかけに、優良新電力への乗り換えを検討しているなら、伊藤忠エネクスがおすすめです。伊藤忠エネクスは、60年以上の歴史があるエネルギー総合商社で、全国19箇所に水力・太陽光・石炭火力・天然ガスの発電施設を保有しています。また2020年より、高圧電力や特別高圧電力の電力小売事業に関して、九州電力と業務提携をしています。

伊藤忠エネクスの法人向け電力販売サービス「TERASELでんき for Biz」では、お客さまの業界や事業規模、電気の使用状況に適した「オーダーメイド式プラン」で電力を供給しており、電気料金の削減をはじめとした、電力会社の乗り換えのメリットを最大限得られるはずです。安定性の高い電力会社に乗り換えたい、電気料金を削減をしたいとお考えの企業のご担当者さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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